目先の対応に終始し、
改革が進まない日本の人材マネジメント
――被雇用者の多様化に伴い、日本企業は今どのような課題を抱えていますか。

大学卒業後、自動車メーカーに入社し、主に人事・人材育成の業務に従事。2006年アクセンチュアに入社し、以降、通信、製造、エネルギー、金融産業等、幅広い業界において戦略コンサルティングに従事。得意領域は、人材・組織戦略、リーダーシップ開発、PMI(Post Merger Integration)など。
植野 多くの日本企業では、「若手人材」「女性」「シニア人材」の獲得あるいは活用に、とりわけ苦戦しています。
ミレニアル世代、ジェネレーションZといわれる20代、30代の人材は、就業に対する価値観が前の世代とはかなり異なってきています。老舗企業のブランドイメージや安定よりも、外資IT企業やスタートアップでのキャリアを選ぶ人材が他世代に比べて多く、大手企業でも優秀な若手人材を集めにくくなっています。たとえ採用できたとしても、3年と経たずに辞めてしまうという話も少なくありません。長い下積み期間となかなか上がらない給料、自身の市場価値の低さに嫌気が指して、より自分の価値を高められる職場を求める傾向にあるわけです。
女性に関しては、様々なライフステージを通じて働き続けられる制度やインフラの整備が進んでおり、女性の就業率を表すM字カーブは年々改善されています。ただし、男女の賃金格差は依然として大きく、女性の管理職はまだまだ少数。つまり、女性が働き続けることはできても、「能力をフルに使って活躍する」「キャリアアップする」という点では多くの課題が残されているのです。
また、シニアの活用も大きな課題となっています。多くの日本企業では、「逆ピラミッド」や「ワイングラス型」などと言われるトップヘビーな人員構成となっており、また、最大のボリュームゾーンであるバブル期に大量採用された世代も、シニアと呼ばれる年齢層に移ってきています。現状は、日本企業では、この人たちの「雇用を守る」ことに奔走し、シニア人材の力を適材適所で「活用する」までには遠く及ばず、実態としては働きに見合わない高い報酬を払い続けているケースが多くなっています。
牧岡 このように被雇用者の価値観に明らかな変化が訪れ、かつビジネスニーズの観点からも変革が求められているにもかかわらず、日本企業の人事制度や人材マネジメントの仕組みはいっこうに改革が進んでいません。人事部はシニア世代の雇用を守るなど目先の問題の対処に終始し、前向きに何かを変えようという動きにまでは及んでいないのが現状といえるでしょう。
人材マネジメント改革には経営者の
リーダーシップが不可欠
――では、人材マネジメント改革を行うには何が必要なのでしょう。
牧岡 やはり、改革を主導する経営者のリーダーシップが不可欠です。とても有名な事例ですが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEO、ジェフ・イメルトはトップダウン型のリーダーシップを発揮し、グローバルグループ全体に強い企業文化を作り上げることに成功しています。例えば、企業文化が異なるシリコンバレー(西海岸)のベンチャーを買収した際には、ダイバーシティを推進するため、東海岸(GE)チームと西海岸チームで月に数回、face to faceのミーティングの開催をトップダウンで義務づけました。人材を多様化すると決めたら、こういうレベルまで徹底してやるのがイメルト流です。
それに比べると、日本企業のトップは本来持っている自分の権限を使い切っていないという印象があります。課題が山積する人材マネジメント改革においてこそ、トップのリーダーシップを発揮すべきではないでしょうか。
植野 日本でも、サントリーのように、多様な人材の活躍を促せる人材マネジメントに舵を切っている企業もあります。たとえば、サントリーでは、女性やシニアをはじめとする多様な人材が、「働きやすい」だけでなく、「成果を挙げられる」状態を目指し、勤務制度に関する制限を極限まで取り払い、個々のライフステージやキャリアの志向性に合わせ、働く時間や場所などの働き方をカスタマイズできる「S流仕事術」という取り組みを進めています。また、それと同時に、評価・登用の仕組みの改革や現場のマネジメント強化にも取り組んでいます。
この取り組みは、専任の推進体制を作って数年がかりで進めており、このケースでも、ダイバーシティの推進における経営陣のコミットメントの高さがうかがえます。