データドリブンな意思決定、
指標のトラッキングによる目標管理が必要
――人材マネジメント改革の中心となる人事部に求められるものは?
植野 日本企業の人事部には不得意なことが2つあります。大きな人材マネジメント改革を成し遂げるには、それらを克服することが必要でしょう。1つは、顧客の声や市場動向、社員の声などのデータの裏付けをもって改革の必要性を説得することです。日本企業の人事部で、こうしたデータドリブンな意思決定を得意としているケースはあまりありません。
あるエンジニアリング会社では、プロジェクトベースのビジネスを行っているため、プロジェクトマネジャーが足りなくなると、業績が伸ばせなくなる状況に陥ってしまいます。旧来の仕組みだとプロジェクトマネジャーを育成するには10年以上必要でしたが、シミュレーションしてみると、それでは計画している事業成長のスピードにまったく追いつかないことが判明しました。これが明らかになったことによって、この会社は信念を持って人材マネジメント改革に着手しています。
もう1つは、これも人事部ではあまり馴染みのないことですが、目標を定量指標に落とし込み、トラッキングすることです。
前述したエンジニアリング会社では、「○年までにプロジェクトマネジャーを○人育成する」「プロジェクトマネジャーの育成期間を○年に短縮する」という目標を掲げました。さらに、プロジェクトマネジャーになるまでの過程をいくつかの段階に分け、それぞれの段階に進んでいる人数をトラッキングできる仕組みとしています。
こうした取り組みによってプロジェクトマネジャーを着実に育てるとともに育成期間を短縮し、経営計画に適合する体制を整えていくことができたのです。
人材マネジメント改革ではデジタルが
威力を発揮する
――「高回転な育成・貢献モデル」への人材マネジメント改革ではデジタルが力を発揮するそうですね。なぜでしょうか。
植野 「高回転な育成・貢献モデル」を構築する際に、はずしてはならないポイントが2つあります。1点目は、「エンプロイー・エクスペリエンス」を軸とした処遇体系です。近年、マーケティングの世界では、消費者はモノの所有よりもそれによって得られる経験に対価を払うというカスタマー・エクスペリエンスという言葉がよく聞かれますが、雇用の世界にも同じことが起こっていると言えます。お金を払えば働いてもらえる時代は既に終わりを告げており、被雇用者は、「生涯賃金」よりも、「成長機会」、「自由な働き方」や「社会への貢献」といった、その組織に所属することで得られるエクスペリエンスを重視しています。金銭的リワードだけでなく、こうした被雇用者が望む経験を与えることで処遇をするという考え方を取り入れないと、今後の人材マネジメントの仕組みは機能しなくなっていくでしょう。
2点目は、キャリアや働き方のパーソナライズです。被雇用者は、人生一毛作、作り置きの固定キャリアには魅力を感じなくなってきています。自身の志向性やプライベートライフに合わせてキャリアをパーソナライズするために、若手人材や女性などは、時には組織のスイッチングを厭わないでしょう。