これまでの日本の人事制度におけるキャリアは、たとえば「総合職」「専門職」といった、2つか3つのハシゴ(キャリア系統)しかなく、一度決めたらひたすら同じハシゴを上る形になっていました(ラダー型という)。しかし、現在の被雇用者が望むパーソナライズされたキャリアと働き方を提供するためには、いわばジャングルジムのような形状の「ラティス型」に変える必要があります。上に上るだけでなく横に行くこともでき、頂上までの行き方も自分で決められ、キャリアアップへの道をそれぞれの社員がカスタムメイドできることが、これからの人材獲得・活用には非常に重要な要件となるわけです。

 しかし、こうしたカスタムメイドキャリアや多角的な報酬体系を構築するには、膨大な運用工数が必要になります。この問題を乗り越えるには、現状のやり方を改善するとか、効率化するレベルでは間に合いません。そこで威力を発揮するのがデジタル技術なのです。

 人材マネジメントをコントロールするデジタル・プラットフォームでは、個々の人材に関するデータを収集・蓄積し、適時・適材・適所の実現や育成プログラムのリコメンド、評価結果フィードバックや本人のエンゲージメント・志向性を踏まえた報酬設計などを一定のロジックで自動化し、人事部だけで運用を賄おうとせず現場に直接アクションを促す仕組みとすべきです。

採用もデジタルを活用する時代に

――そうしたデジタル・プラットフォームを活用した人材マネジメントが包括的に実現されている事例はまだ殆どないようですが、欧米を中心に実現可能なテクノロジーがサービス化されているそうですね。

植野 例えば、シリコンバレーでは、クラウドツールを活用し、採用候補者プールの中から、募集職種におけるハイパフォーマーのデータを分析して導き出された採用要件に合致する人材をリコメンドするテクノロジーがサービス化されています。

 グーグルは、すでに独自の採用候補者データベースを作っています。現在、求職活動を行っていない人すらも、そのデータベースに含み、その人がどういったキャリアを積み、どんなポジションについているかといったことも含めて追いかけて、自社のビジネスに必要になった瞬間にアクセスするといったことが想定されています。

 また、選考については、面接で応募者の人となりを見るという、面接官の主観に依存したやり方は今後、改善されていくでしょう。グーグルでは、その職務を高いレベルで遂行できるかどうかをテストするという面接のスタイルを採っていて、そのために職務に合わせた質問を科学的に導き出すツールも開発しています。

 人事部は最終的に、データで把握した人材を、企業の戦略に合わせて適時・適材・適所に投入する司令塔の役割を果たすことになるでしょう。

牧岡 これまで採用については、担当者が経験と勘に基づいて、採用可否をアナログで判断していました。たしかにそれは正しい場合も多いのですが、グローバル化による人材スコープの拡がりの中で、対象となる人数が1000人、1万人といった規模にもなると、とても対応できません。また、今の人事評価制度は、その人がどの部署で何を担当したら成果が出せるかという予測型ではなく、すべて後付け。現在成果が出ている人材も、たまたま配置された部署が合っていて、力を出せただけかもしれません。これでは適時・適材・適所の人材配置とはいえません。これらの問題点を克服するためにも、今後はデジタル活用が不可欠となっていくでしょう。