ハーバード・ビジネススクール卒、ベイン・アンド・カンパニーの元コンサルタントのあなたにお尋ねします。もしIOCがあなたをコンサルタントとして雇い、オリンピックの新たなビジネスモデルを考えるよう依頼してきたら、何を伝えますか。
IOCは夏季・冬季大会の開催地として、恒久的または半恒久的な場所を、1つないし少数選んで会場とすべきです。IOCはその方式でも、今日と同じだけの収益を上げることができるうえ、開催側の費用負担ははるかに減ります。むしろこの変更は、オリンピックのブランドを強化することにつながり、リオや北京やソチで生じた残念な出来事の多くを回避できるでしょう。
IOCは、フランチャイズから脱却して五輪事業に直接携わり、大会の運営にみずから責任を負うべきです。大胆な挑戦となりますが、最終的にはIOC自身にもステークホルダーにも、現状よりはるかに望ましい結果となるはずです。
開催地を1ヵ所に常設にすると、大会の壮大さは保てます。開会式と閉会式には、全選手が一堂に集まれますからね。ですが、世界各地の異なる都市に毎回スポットライトを当てることはできなくなります。
IOCが最も得意とし価値を創出できるのは、世界中の人々に消費したいと望まれる、真に優れたコンテンツをつくるという部分にあります。それが常設地では実現できない理由を、私は思いつきません。取り組みを1ヵ所で定期的に重ねていけば、経験曲線が効いてくるでしょう。これは現在のオリンピックにおける大きな課題の1つです。都市に対して、世界最大の規模、費用、複雑さを伴うイベントの開催を一発勝負でやれというのですから。
地球の反対側にいて時差がある放送関係者は、どうなるのでしょうか。
それが一番難しい問題でしょうね。テレビの放送事業者は、ゴールデンタイムになるべく多くの競技がリアルタイムで行われることを望みます。地域によってその成否は分かれるでしょう。しかし全体としては、放送関係者にとってのオリンピックの総価値が下がるとは必ずしも思えません。
先ほど提案された、もう1つのモデルはいかがでしょうか。少数の場所で同時分散的に開催すれば、放送関係者は助かると思われます。でも、全選手が1ヵ所に集まるという壮大さは失われますね。運営・財務面の負担は分散されますが、スケールの大きさも減ることになります。
その点については、ボストンでも盛んに論じられました。すべての選手と来訪者が5マイル四方の1つ所に集まることには、それなりの魅力がある、と。
一方、オリンピックに関わる人々の99.9%は、スクリーン越しに大会と関わり、世界中に散らばっています。彼らのその体験は、全選手が1ヵ所に集まっていてもいなくても、さして変わらないでしょう。分散開催によって、1会場での開催に伴う負担と欠点をなくしつつ、スケールの大きさという魅力は維持する――その方法はきっと見つかると私は考えています。
2014年、IOCは、「オリンピック・アジェンダ2020」と題した一連の改革を可決しました。そこでは、都市にとってオリンピックの開催がより現実的で金銭的負担が少ないようにする、という旨の目標が挙げられています。その一環としてIOCは、より安価な仮設および既存の施設の活用を奨励する、としています。既存のビジネスモデルを部分的に変更すれば、うまくいくのでは?
IOCは以前から、問題を理解しているので改革すると表明してきました。しかし、その約束を実際に果たそうという姿勢を示していません。今後のビジネスモデルを考えると、IOCは結局いまのやり方を続ける可能性が非常に高いのです。そして、「世界の檜舞台に立てる」という輝かしい見返りを求める複数の都市が、数年おきにそのリスクを負ってくれるものと、IOCは期待し続けるでしょう。
開催都市の住民と納税者には不幸な結果をもたらしながら、状況はそのまま進んでいくのです。改革がこの目で見えれば私も嬉しい。しかし、IOCは今日までに、真の改革であると私が納得できるようなことは何一つしていません。
リオ大会をテレビで見ますか?
私が10歳の時、ドリームチームがバルセロナで活躍しました。以来、バスケットボール全米代表のファンです。我々の団体No Boston Olympicsは、選手の存在やその多大な功績を否定するものではなく、オリンピックの理念に反対するつもりもありません。我々が提起してきた問題は常に、主催者側に関すること、そしてIOCのプロセスの欠陥です。ありがたいことに、いまはこれら2つを脇に置いて、オリンピックを楽しめますよ。
HBR.ORG原文:The Olympics Needs a New Business Model August 05, 2016
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