我々はPYMNTS.comと協働し、アップルペイの採用に関するデータを収集し始めた。成功を収めている他のプラットフォームとの比較により、アップルペイの影響力を見極めるためだ。
2014年11月に出た最初の結果は、我々の疑念を裏づけるものだった。アップルペイをインストールしたiPhone 6ユーザーの数も多くはなかったが、もっと憂慮すべきことがあった。インストールした人のほとんどが、アップルペイ対応端末で決済するときですら、それを利用していなかったのだ。そこで我々は、2014年12月5日に、「アップルは米国での戦略を変えない限り苦戦を強いられるだろう」という早期警報を投稿した。
18ヵ月後、それを裏づける結果が出た。2016年3月付の我々の最新の調査結果では、アップルペイを利用可能なiPhoneユーザー(適切なバージョンを持ち、アップルペイ対応のNFC端末を前にしている)20人のうち、利用したのはたった1人であった。この採用率は18ヵ月前とそれほど変わっていない。我々の算出では、決済カード取引におけるアップルペイのシェアは1%を優に下回り続けている。2014年11月で約0.7%、2015年6月で0.8%、2016年3月で0.6%だ。
マッチメーカーは、爆発的な成長に向けて尽力し、ひとたび臨界量を確保したあかつきには成功を手にできる。ただ、アップルペイがその途上にあるという根拠はどこにもない。
これを雄弁に物語る事実がある。アップルはその成功への言及とは裏腹に、アップルペイの実際の利用率については何も語っていない。2016年6月13日、WWDCの場でアップルの幹部たちは、アップルミュージックが1500万人の有料会員を獲得したこと、シリ(Siri)が週に10億件のリクエストを受け付けたことに胸を張った。だが、消費者が自社の決済サービスをどれくらいの頻度で利用しているかについては、沈黙を保ったままだった。
もちろん、献身的なiPhoneユーザーの巨大な基盤と、2000億ドルを上回る手元資金を擁するアップルを、典型的なスタートアップと同様に見限ることはできない。臨界量を確保するために戦略を変更するか、あるいは多くのモバイル決済のライバル企業には耐えられないほど長期戦に持ち込むのかもしれない。
実際、つい先頃、モバイルとデスクトップのウェブサイトからのオンライン購入にもアップルペイを対応させることが発表された。これは有望にも思えるが、依然として課題は大きい。そして、当初解決を目指した問題とは大きく異なる。
アップルペイは、今度こそ革命を起こそうと奮闘しているようだ。
HBR.ORG原文:A Deep Look Inside Apple Pay’s Matchmaker Economics June 17, 2016
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デイビッド・S・エバンズ(David S. Evans)
経済学者、ビジネスアドバイザー、起業家。マルチサイド・プラットフォームの新たな経済性に関し、先駆的な研究を行っている。共著にMatchmakers: The New Economics of Multisided Platformsがある。

リチャード・シュマレンシー(Richard Schmalensee)
マサチューセッツ工科大学(MIT)のハワード・W・ジョンソン記念経営学・経済学講座名誉教授。MITスローン・スクール・オブ・マネジメントの学部長を9年間務め、米国経済諮問委員会のメンバーも務めた。共著にMatchmakers: The New Economics of Multisided Platformsがある。





