プラットフォーム事業の寵児として称賛されるAirbnb(エアビーアンドビー)。本記事ではシェアエコノミーに批判的な立場を取る筆者が、Airbnbの問題点を鋭く指摘。世界各地で地元住民に犠牲を強いている実態を示す。
Airbnb(エアビーアンドビー)の新しい広告キャンペーンには意外性がある。観光客になることはやめよう、と人々に呼びかけているのだ(英語動画)。曰く、「パリを訪れるのはやめよう。パリを見物するのはやめよう。観光客らしい行動は、くれぐれもやめよう」。そして決め台詞が続く――「パリで暮らそう。たとえたった1泊でも」
Airbnb幹部のジョナサン・ミルデンホールが『アドウィーク』に語ったところによると、このキャンペーンは「典型的な観光体験とは違う、現地での実際の暮らしを反映した体験への需要」が高まっていることを踏まえているのだという。
しかし、Airbnbはすでにマスツーリズム(大衆化された観光)の手段となっており、その利用者は観光客以外の何者でもない。このことを同社が認めるときが来るまでに、いったい何人の旅行者が「現地で暮らす」ことができるのだろうか。というのも、観光産業における他の分野と同様、Airbnbは両刃の剣と化している。来訪者は新しい体験をしてお金を落としていくが、その数が増えるにつれて、彼らが享受できる「現地の雰囲気」そのものが損なわれていく。そして、地元住民にとっての住みやすさが脅かされるのだ。
2014年、パリでのAirbnb登録物件数は2万件であった。2015年にその数は4万件に急増。ある住宅検査官は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の取材にこう応じた。「当市の中心街では地元住民が消えつつあり、観光客ばかりがどんどん増えていきます」。その後現在までに、さらに2万件の登録物件が現れた。このような状態では、「どこでも居場所がある」をキャッチコピーに掲げる同社が、世界各地の市当局から冷遇されるのも驚くにはあたらない。それらの都市は、激増する宿泊施設への対応に苦慮しているのだ。
Airbnbは、自社の事業はさほど影響力がないように見せ続け、一般の人々がホストとなって自宅を時折貸すことで成り立っているのだとしている。ポルトガル首都リスボンでの事業に関する最近の同社発表によれば、「リスボンにおけるAirbnb登録物件の多くは、地元住民の家」であるという。そして読み手を安心させるべく、「リスボンのAirbnbホストの72%は、1物件のみ登録しています」と伝えている。
だが、この記述は真実を歪めている。というのも、私が独自に収集した一連のデータによれば、2件以上の物件を登録している28%のホスト(つまり「営利目的」と考えられるホスト)が、リスボン事業の3分の2を占めているのだ。
また、同社の主張では「リスボンではAirbnbゲストの70%が、典型的な観光スポットではない場所に滞在」とされている。ところが私のデータによれば、滞在先の過半数は、ミゼリコルディアおよびサンタ・マリア・マイオールという2つの中心地区からなる、面積わずか6平方キロメートル程度の地域に集中している。
人口約50万人という小都市リスボンでのAirbnb物件数は、2015年5月には5500件だったが、現在では1万件以上に増えている。甚大な影響を避けられるはずがない。ヌエバ・デ・リスボン大学の地理学教授、ジョアオ・セイシャスと同僚たちはこう述べる。「この美しい市の歴史的中心地で、急速に進んでいる事態に大変憂慮しています。私たちの推定では、この3年間に住宅ストックの約4分の1、あるいは3分の1までもが機能を転換しました。主に投資用か短期賃貸用の物件になったのです」