Airbnbが本拠地サンフランシスコ市との間に抱える軋轢は、先頃さらに悪化した。2015年2月からの新条例によって、Airbnbのホストは同市への登録が義務付けられた。しかし1年以上経過した現時点で、登録を済ませたホストはわずか5分の1程度にとどまっている。そして現在、市はホスト登録の責任を同社に負わせるべく、今後は当局が突き止める未登録物件1つにつき、1日当たり1000ドルの罰金を同社に課す法案を通した。これに先立ってニューヨーク州とシカゴでも同様の規制ができ、法的措置の厳格化は新たな段階に入ったといえる。

 対するAirbnbは、新条例が以下3つの法律に違反していると主張し、サンフランシスコ市を連邦裁判所に提訴した(同社公式見解)。

 まず、1996年に成立した通信品位法(Communications Decency Act)第230項によれば、ウェブサイトの所有者は利用者から提供されたコンテンツに責任を負わない(製作者ではないため)。この法はブロガー、新聞、およびクレイグスリスト、イェルプ、ユーチューブといったソーシャルメディアサイトを保護するためにつくられたものだ。

 次に、1986年成立の蓄積通信法(Stored Communications Act)によれば、政府がウェブサービスの利用者に関する情報を入手する権利を得るには、事前にしかるべき召喚令状がなくてはならない。

 最後にAirbnbは、新条例が「表現内容に基づく規制」であるとして、米国憲法修正第1条による保護を求めている。

 Airbnbの事業は詭弁のように見える。稼ぎ場となる都市で「現地の人のように暮らす」という概念を広めておきながら、現地で起きることには最終的に責任を負わないと主張する。ウェブサイトの所有者が、寄せられるコメントには責任を負わないのと同じように。

 Airbnbの提訴が認められれば(一部の専門家によると、そのチャンスは十分にあるという)、通信品位法によって、事業が及ぼす影響への責任は免れる。そして蓄積通信法により、市はホストを詮索できず、結局はAirbnbに責任を問えなくなる。もしそうなれば、全米中の市当局はAirbnb登録件数に歯止めをかけられず、それによって現地にもたらされる観光ビジネスの激化も抑えられないだろう。(観光客で儲けようというホストと事業者の)インセンティブが強く結びつき、都市にとっては有害となるのだ。

 だがAirbnbにとって、万事が順風満帆にいきそうなわけでもない。同社の事業地域はいまや大部分がヨーロッパだが、ベルリンとバルセロナは休暇用賃貸物件の激増にいっそう厳しい姿勢を新たにしている。パリもやや控えめながら同様だ。また世界10都市の市長たちが連携し、Airbnb(およびウーバーのようなプラットフォーム事業)がもたらす問題に対する共通の対応策を策定すべく、作業部会を始動した。

 このような展開は、いまこそよいタイミングである。さもなければ、豊かな観光体験は、「地元住民」という最も大切な人々の犠牲によって成立する事態になりかねないのだ。


HBR.ORG原文:Airbnb Is Facing an Existential Expansion Problem July 11, 2016

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トム・スリー(Tom Slee)
テクノロジーと社会に関する著述家。著書にWhat's Yours is Mine: Against the Sharing Economyがあり、シェアエコノミーへの批判で注目を集める。理論化学の博士号を持ち、ソフトウェア業界で長いキャリアを有する。