従業員の行動をモニタリングすれば、規則の順守率は上がるのか。米病院での手洗いを対象とした調査結果によれば、短期的には効果があった。しかし途中でモニタリングを廃止した場合は、開始前より悪化するという結果が示された。
やるべきことをしっかりと実行させるためには、どうすればよいだろうか。特に、仕事を無事完遂するために欠かせない規定のプロセスを、どうすれば順守してもらえるだろうか。その際、「従業員のモニタリング」は有効なのか、それともマイナスに作用するのだろうか。
これらは真新しい問いではない――「科学的管理法」の父と呼ばれるフレデリック・テイラーの名前を知っている人なら、誰でもそう言うはずだ。しかし、重要性という点では現在も変わらない。たとえば医療衛生、具体的には病院での手洗いを考えてみよう。この簡単な行動が、命に関わる院内感染の予防に役立つことは知られている。にもかかわらず、人は手洗いを忘れず実行するのがきわめて難しく、しかもそれが不可抗力であることも多い(疲労など)。
過去の研究によれば、医療従事者は1日の勤務に入ってから時間が経つほど、規定通りに手を洗うことが少なくなっていった(ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのヘンチェン・ダイとキャサリン・ミルクマン、およびノースカロライナ大学チャペルヒル校キーナン・フラグラー・ビジネススクールのデイビッド・ホフマンおよびブラッドレイ・スターツの研究報告)。この傾向は、仕事の負荷(仕事の量や頻度、緊急性、難易度が高まることで生じる大変さ)が大きい時には特に顕著であった(関連記事)。手洗いの順守率は50%以下が常態化しているのも、無理からぬことだ。
では、人はどういう条件下なら忘れずに手を洗うのか。上記の研究チームは、42ヵ所の病院で3年半にわたって手指衛生規則(手洗いおよびジェル消毒液の使用)の順守状況をRFID(無線式電子タグ)でモニタリングし、そのデータを分析した(英語論文)。(順守状況の調査だけでなく)監視されること、つまりRFIDのシステムそのものが、従業員の行動にどう影響を与えるかを探るためである。
監視されていることを知っていれば、順守率は上がるのか。もしそうならば、それは長期的にも、よい習慣の形成につながるのだろうか。
より一般的な問いとしては、ピープル・アナリティクス(従業員の行動データを収集・分析して職場改善やビジネス成果につなげる手法)がますます普及していくなか、「従業員の行動を追跡・記録する」という行為自体について、何か示唆は得られるだろうか。