第1に、RFIDによるモニタリングは手洗いの順守率を高めていた。なかでも、マネジャーが従業員にRFIDの使用をしっかり準備させた場合は特に高かった。この効果は、RFIDを使い続けた組織では約2年間持続し、その後は徐々に低下していった。
ところが、RFIDによるモニタリングが途中で完全に廃止された複数の組織では(補助金の打ち切りという理由が多かった)、順守率は追跡を行なう前より低くなった。つまり習慣が根づくことはなく、むしろ悪化したのである。
研究チームはこの結果をもたらした理由について、100%の確信は持てていない。しかしブラッドレイ・スターツは、「この結果は、モチベーションの押し出し効果(motivational crowding out)という現象と一致しています」と述べる。「ごく簡単に言えば、人間が面倒な作業をするのには、外発的な動機(報酬、他者による監視など)と、内発的な動機(楽しい、有能感が得られるなど)があります」
監視されているという外的要因は、行動の変化につながることもある一方、内発的動機を押し出してしまうおそれもある。スターツは私へのメールの中でこう説明する。「これがなぜ非常に問題なのか。今回の調査環境にも当てはまるかもしれませんが、人の行動が、最初は内発的な動機(例:手洗いはいいことだという考え)に基づいており、その後に外発的な動機(例:モニタリング)に押し出されるとします。その外的要因が消えた時には、モチベーションがなくなったり、下がったりするということです」
これはつまるところ、従業員の行動を追跡すること自体が目的化してはいけない理由だと彼は言う。最も重要なステークホルダー(従業員、顧客、患者)に対し、モニタリングがどういうメリットをもたらすかを自問してみることだ。さらに、従業員を後押しして、モチベーションを高める他の手段も加えなくてはならない。スターツによれば、(手指衛生の順守に関して)「圧倒的に効果が大きかった取り組みは、病院のリーダー陣が手指衛生の重要性を従業員にしっかり伝えること」であった。彼は自身の今後の研究テーマとして、順守率をより高める施策を探求していくという。
以上がはっきりと示しているのは、RFIDによる追跡やその他のモニタリング手法には、プラスの効果も期待できるが、「導入し、放っておけばよい」という種類のテクノロジーではないということだ。十分な配慮と長期的な方策が必要になる。
スターツは言う。RFIDによるモニタリングは、「マネジメントの向上を助ける1つの手段にはなります。でもそれだけでは、問題を完全に解決するものではありません」
HBR.ORG原文:The Long-Term Effects of Tracking Employee Behavior July 18, 2016
■こちらの記事もおすすめします
アナリティクスによる人事管理は、どこまで許されるか
疲労が溜まると職務規定違反が増える

グレッチェン・ガベット(Gretchen Gavett)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のアソシエート・エディター。