その答えは、各人の性格の違いにあると考えられる。達成目標を与えられると不正行為に走りやすい人もいれば、その誘惑に抵抗する人もいる。この点を検証するために、筆者らは実験を考案した。(本研究については先頃『ジャーナル・オブ・ビジネスエシックス』誌で発表している〈英語論文〉)。
筆者らが注目した性格特性は、「倫理的正当化(moral justification)」である。これは、有益または倫理的な目的のためなら不正行為も正当化される、と考える傾向を指す。この傾向が強い人は、達成目標を不正行為の口実として利用する可能性が高く、この傾向が弱い人はそうしないだろう、と筆者らは考えた。
この実験をオンラインで行うために、さまざまな業界・年齢層のフルタイム従業員を106人選んで参加してもらった。全被験者はまず、倫理的正当化に関する質問票テストを受けた。たとえば「会社を窮地から守るためには、真実を曲げることもやむを得ない」といった文章について、1(まったく同意できない)から5(強く同意する)の5段階で答える。このテストのスコアが高いほど、倫理的正当化の傾向が強いということになる。
続いて、不正行為に関連するテストを2つ受けてもらった。被験者の半数には、具体的で困難な達成目標を与えた。残りの半数には、「ベストを尽くしてください」とだけ伝えた。
テストの1つでは、アナグラムの課題を3回行ってもらった。ある文字列の文字の順序を入れ替えて、異なる単語をつくる作業である。そして事前にこう嘘を伝えた。「実験者には被験者の答えが見えない。単語がいくつできたかは各自の自己申告に頼る」。こうすれば、被験者には実際の成績よりも水増しする機会が与えられるわけだ。
すると、次のような結果が示された。
各文字列から「単語を9個つくる」という具体的な達成目標(回答者のトップ10%程度にしか達成できない難易度)を与えられた被験者は、「ベストを尽くしてください」とだけ伝えられた被験者と比べ、自分の成績を水増しして報告する傾向が強かった。ただしこれは、倫理的正当化のスコアが高い被験者だけに限られた。「倫理的正当化の傾向が強い」「具体的な目標」の両方に該当する被験者は、3回の作業全体にわたり、平均で約5つ単語数を水増ししたのである。
倫理的正当化の傾向が弱い被験者は、具体的な目標を与えられても成績を水増しすることはなかった。言い換えれば、倫理的正当化の傾向が強い人だけが、達成目標を不正行為の口実にしたのである。
これは次のことを示唆している。目標設定はたしかに、組織内の倫理に負の影響を与える可能性がある。だがその影響が及ぶのは、特定の性格特性を持つ人に限られるのかもしれない。
ところが2つめのテストでは、倫理的正当化の傾向の強弱にかかわらず、目標設定によって不正行為への誘惑が強まる可能性が示されたのだ。
今回は被験者に対し、ビジネスで現実にありそうな状況について、自分ならどう対処するかを説明するように求めた。各人はセールスマネジャーの役割を演じ、自分の仮定上の仕事について一連の質問に答える。各質問では2つの行動のいずれかを選ぶ。1つは、金銭的利益または損失回避につながる非倫理的な行為(例:販売する商品の耐久性が下がった事実を顧客に伝えない)。あるいは、利益にはつながらない正しい行為だ(正確な情報を顧客に伝える)。
その結果はこうなった。
売上目標の金額を具体的に設定された被験者は、曖昧な目標を与えられた被験者に比べて、不正な手段を選ぶ可能性が2倍近く高かった。それは倫理的正当化の傾向と関わりなくである。これが意味するのは、倫理的正当化の傾向が弱い人でも、具体的で困難な達成目標を与えられた場合、何らかの不正行為をしてしまう可能性が高まるということだ。