コールセンター事業を切ったタタの決断

 2000年代の初めの頃、オフショアのコールセンタービジネスが活況に沸くただ中で、インドの技術サービス大手のタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は、コールセンター事業を売却するという、普通では考えにくい意思決定に踏み切った。

 その理由は何だろうか。コールセンターの業務委託は既存事業の中でも急成長を遂げていたが、やがて重荷になると、TCSの経営陣は考えるようになっていたのだ。従業員の離職率が極めて高く、人材部門は休む間もなく年間50万人もの新規スタッフを雇い入れては訓練するという業務に追われていた。そのためリソースが枯渇し、より高度なケイパビリティやサービスを開発するという本来の目的に集中できなくなっていた。TCSはコールセンターから撤退することで、たとえかつてないほど需要が旺盛だったとしても、正しい未来が誤った未来に圧倒されないように行動に出たのだ。

 TCSの動きは「計画的な日和見主義(オポチュニズム)」と私が呼ぶものの結果だった。この概念は、未来は予測不能であり、非線形の変化や偶然の出来事によって形づくられると認識するところから始まる。これが「日和見主義」の部分だ。そして、リーダーとしてどう対応するかが「計画的」な部分である。計画的な日和見主義は弱いシグナルに敏感でなくてはならない。弱いシグナルとは、購買層、技術、顧客の好みやニーズ、経済面、環境面、規制面、政治面の影響力で重要な変化が想定される新たな傾向を示した早期の兆候を指す。弱いシグナルに注意を払うことで新しい展望や非線形思考が生まれ、妥当と思われる未来をあれこれと想像し計画を立てるのに役立つ。