DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの連載「リーダーは『描く』」。今月は日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)でのワークショップです。描くのはチェアマンの村井満さんと、3人の職員のみなさんです。三々五々会場入りしたみなさん。村井さんは柔和な表情でしたが、ほかの3人は固い表情です。村井さんの口からは「フリーズしていますね」という言葉が。そんな状態から、ワークショップはどのような展開を見せていったのでしょうか。そしてみなさんは、絵にどんな思いを込めたのでしょうか。11月9日に行われたワークショップは、自己紹介と意気込みの表明から幕を開けました(構成・新田匡央、写真・引地信彦)。

大一番を前に、
緊張を隠せない参加者たち

 参加者の自己紹介からスタートしたワークショップ。最初に順番がまわってきたのは、広報グループでマネジャーを務める吉田国夫さんでした。さまざまな場面でお話しする機会があると思うので、人前で話すのは朝飯前のはず。しかしどこか固い声に聞こえました。いつもとは違う「別の何か」が、吉田さんに覆いかぶさっているのでしょうか。

吉田国夫さん

「絵を描くのは、何十年ぶりかわからないほどです。どんなものができるかまったく想像がつかないですけれど、自分の感性に任せてやってみたいと思います」

 続いて、吉田さんの左隣に座る大城亨太さんです。大城さんはクラブライセンス事務局でJリーグ各クラブの経営状態をチェックする役割を担っているといいます。

大城亨太さん

「私も、いつ絵を描いたか思い出せないぐらい久しぶりです。でも、気軽な気持ちでがんばりたいと思います」

 気軽な気持ちでという言葉が、むしろ緊張を強調しているように思えます。それを払拭しようと、ご自分に言い聞かせているようにも見えました。

 続いては、経営管理本部企画部の宮本梨沙さんです。宮本さんの仕事は、主に各クラブの社長が集まる会議のオペレーションだといいます。

宮本梨沙さん

「絵は苦手意識しかなくて、今日は緊張しています。うまく描こうとせずに、楽しんで表現できるようにがんばります」

 緊張していますと吐露してくださったように、少し空気が張りつめています。3人それぞれが意気込みを語るも、まだまだ空気は堅いです。

 そんな中、最後はチェアマンの村井さんです。7、8年前、村井さんは一度ワークショップを体験されているそうです。

村井満チェアマン

「でも、ワインを飲みながら絵を描いたという記憶しかないんです。今日はシラフでがんばりたいと思います」

 村井さんの笑顔に、場の空気が少し和みます。大一番の試合が始まる直前、緊張感に包まれるチームを、キャプテンの村井さんがリラックスさせる。サッカーに例えるならば、さながらそんな光景でしょうか。

 このワークショップはもともと、「絵はもっと自由に描いていい」という思いを伝えようと子ども向けに考案され、2002年に始まったといいます。その後、それを大人向けに実施できないかという要請があり、2004年からは大人向けにアレンジしたワークショップがスタートします。今では、企業向けにアレンジした「Vision Forest」という組織変革アプローチとして発展。2015年には、参加者がのべ1万人を突破しました。

 ワークショップを共同で提供するのは、アート教育の企画・運営やアーティストのマネジメントを行う株式会社ホワイトシップ、それにビジネスコンサルティングサービスの株式会社シグマクシスです。本誌の連載「リーダーは『描く』」では、両社の全面協力のもと実際にワークショップを実施し、その様子を記事化しています。