それぞれが絵に込めた思い

 参加者のみなさんは、それぞれどのような絵を描き、どのような思いを込めたのでしょうか。ここからは1人1人の発表になります。参加者にとっては、ペナルティキックに向かう選手の心境と近いものがあるのかもしれません。しかし、最初の自己紹介の時のような緊張状態にあるようには見えません。むしろ笑みがあふれています。描く不安から解放されたからなのか、自分の思いを十分に描き切った充実感からなのか、はたして。

 最初は、大城さんです。

「働くうえで大切にしていることと聞いて思い浮かんだのは『ピンチはチャンス』というフレーズです。そして『最後は楽しいこと』という姿勢が大事だと思っているので、丸い形を描きたいと思いました」

 大城さんは、最初から最後まで丸を描くことに集中していました。ご本人も、丸を描くことにこだわり続けたといいます。

「途中、格好いい丸を描くことに集中しようと思った時間帯もあるのですが、不器用な丸でもいいと思い直し、最後まで描きました。自分が楽しいことも重要ですが、周りが楽しいことも重要です。ゴールのイメージさえ描けていれば、プロセスは苦になりません」

 2人目は吉田さんです。

「人の話はちゃんと聞かなければいけませんね。説明された『こすりんぐ』の話がすっぽり抜け落ちていました。とはいえ、曖昧にしたくないというこだわりがあったので、指でこすってボヤッとした感じを出すつもりはまったくありませんでした」

 吉田さんが仕事をするうえで大切にしているのは「フラットであること」「フェアであること」だそうです。それが太く交差する白い部分であり、その境界をはっきりさせることにつながっているといいます。

「描いているうちに、血が通っていることを表現したくなり、動脈のような赤い線を入れました。それは、他人をきちんと見ながら仕事をするという意味合いでもあります」

 タイトルは「誓い」。重厚なタイトルに感嘆の声が上がります。しかし、右下に描かれた三色についての説明がありません。

「これは、自分が仕事から抜けられないことを象徴しています。実はこれ、現時点でのJ2の順位なんです。カテゴリーの別け隔てなく仕事することを心がけよう。それを誓うというニュアンスも込めたつもりです」

 3人目は宮本さんが立ちました。

「働くうえで大切にしているのは、相手の立場で物事を考えること、チーム、平等、思いやり、ボーダレスという言葉です」

 それを表現するうえで思い浮かんだのが、やはり円だったといいます。

「いろいろな人と仕事をするなかで、情熱のある人もいれば、クールな人もいます。その人たちが混ざり合っている現場で、みんなのことを受け入れる。そんな意味を表現するために、すべての色を使おうと決めて描きました」

 円を描くことで、角がないこと、どの角度から見ても平等に見えることにこだわったという宮本さんは、タイトルを「みんな違って みんないい」としました。宮本さんの絵からは、あらゆる場面、あらゆるポジションの選手にかかわり、すべてのチームメイトの強い面を生かし、弱い面を補う、ボランチというポジションが思い浮かびました。

 そして、最後は村井さんです。

「職場でもよく言っているのですが、いい仲間と、仲良く楽しく仕事をして同じ目的に向かうというのが、私が働くうえで大切にしていることです。イメージで表現すると、透明感があるなかに風が流れるようなやわらかいイメージです」

 当初は、そんなニュアンスを出そうと思って描き始めた村井さん。途中で思い立って斜めの線を入れてみると、絵にスピード感や勢いが生まれたといいます。

「そこでふと気づきました。大事なのは、良い関係性を構築することではなく、良い関係性のなかで自分の意見を妥協しないで主張し合い、ミスを恐れずに仕事をすること。考え方は当初と変わりませんが、考え方の力点が変わったのです。そこからは急激に絵が変わり、当初のイメージとはまったく異なるものに仕上がりました」

 妥協をしない。でもミスを恐れない。自分で常にゴールを入れるイメージを描く。そして、その矜持。でもその裏には、仲間との良い関係性を構築し、絶妙なコンビネーションも忘れない姿がありました。

 そんな村井さんは、この絵に何というタイトルをつけたのでしょうか。そして、その絵に込めたさらに深い思いはどのようなものだったのでしょうか。詳細はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー1月号に掲載されています。ぜひお読みください。