顧客が企業にどれだけ価値をもたらすかを測る、新たな指標がある。それは購買を動機づける感情、すなわち「感情誘因」だ。そこに訴えかけて感情的つながりを強めることは、顧客満足度の向上よりも効果があるという。


 企業は自力成長による利益を増やすために、一連の顧客体験の最適化に大きく投資するようになっている。その対象には、顧客が自社のブランド、製品、プロモーション、提供サービスと関わるすべての局面(オンラインとオフラインの両方)が含まれる。

 しかしほとんどの企業には、次の要素を併せ持つ戦略目標がない。すなわち、カスタマージャーニー全体に適用でき、全社的に理解・オペレーション化され、顧客生涯価値を高めるもの(これが最も肝心な点)である。明確で測定可能、かつ価値創造につながる目標がなければ、膨大な人材と資源を投じても、まともな経済的リターンにつながらないおそれがある。

 企業は、実店舗、コールセンター、ECサイト、ソーシャルメディアにおける顧客体験のマッピングと顧客行動の追跡に追われている。そのために独自のアンケート調査、顧客追跡システム、ロイヤルティ施策、外部の情報提供者を通じて大量のデータを集める。

 その際に表明される典型的な目標は、「カスタマージャーニーの各段階で顧客満足度を向上させる」ことだ。しかしながら、全体的な顧客満足度はすでに十分高いというケースも多く、競争上の差別化要因になることは稀である。

 我々は、数十分野にわたる数百のブランドを調査し、顧客生涯価値を最大化する最も効果的な方法を見出した。それは、単なる顧客満足度を超えて「感情」のレベルで顧客とつながりを築くことである。顧客の根源的な動機に働きかけ、深い(往々にして言葉にされない)感情面の要求を満たすのだ。

 これは、複数ある「感情誘因(emotional motivator)」に訴えかけることを意味する。たとえば「帰属意識を持ちたい」「人生で成功したい」「安心感を得たい」などである(詳細は我々のHBR論文「買いたい気持ちを科学する」を参照されたい)。

 感情的つながりのある顧客は、ただ満足度が高いだけの顧客に比べ、2倍以上の生涯価値を持つ。製品・サービスをより多く購入し、より頻繁に訪問し、価格への感応度は低い。その企業のメッセージに関心を払い、助言に従い、ブランドを他者に推奨する傾向が高い。つまり、顧客にこうあってほしい、と自社が望む通りの体験を誘発できるのだ。顧客体験のデザイン、優先順位づけ、測定において、感情的つながりに基づく戦略と指標を用いている企業では、つながりの強化が収益に大きく寄与している。

 顧客体験のあり方は、感情的つながりを左右する決定的に重要な要因である。たとえば我々の分析では、オムニチャネルを利用する顧客は感情的つながりが非常に強く、一貫して収益性が高い。だが残念ながら、顧客は多くの場合、体験におけるどの要素が自身の感情誘因に最も共鳴するのかを、企業に伝えることができない。実際、特定の顧客体験要素の重要性について誤って回答することも頻繁にあり、これが企業の的外れな努力につながっている。

 我々は高度なビッグデータ解析技術を用いて、顧客体験への投資を最適化する手法を開発した。この手法は、感情的つながりを強める部分に直接働きかけることができ、ひいては顧客生涯価値と経済的リターンを高めるものである。