ある証券会社と協働した我々は、感情的つながりの価値を定量化するために、顧客の主な感情誘因を特定して、それらを顧客体験に関連づけていった。重要な感情誘因として浮かび上がったのは、「注目される存在でありたい」と「人生を体系的で秩序あるものにしたい」である。これらの感情が、この証券会社を介して投資する最大の誘因となっていた。

 この発見を基に、我々は100近い顧客接点(口座開設から、その後の継続的なカスタマーサービスまで)を検証した。その際、顧客が重要だと回答したものと、予測分析によって感情的つながりへの影響が実際に示されたもの、両方を照合した。たとえば口座開設時について、顧客は「資金移動のサポートが非常に重要だった」と答えている。しかし我々のビッグデータ解析によれば、それは感情的つながりにたいした影響を与えていなかった。大きなインパクトがあったのは、個人宛の歓迎レター、そしてオンラインの投資学習動画だったのである。しかし顧客は、これらを重要要素として言及しなかった。

 顧客が表明する重要事項に対応することは、もちろん必要ではある。だが我々の調査分析によれば、顧客体験への投資は、感情的つながりを強める要素と合致させるほうがはるかに有益であり、投資対効果の最大化とリスクの最小化につながる。この証券会社では、感情的つながりを強める顧客体験戦略の対象となった顧客は、単に満足度だけが高いその他の顧客に比べて、同社に資産の一元管理を任せる傾向が6倍高くなった。

 某大手アパレル小売企業との協働事例もある。顧客の主な感情誘因として明らかになったのは、「帰属意識を持ちたい」「買い物体験を通してワクワクしたい」「自由と独立を感じたい」であった。そこで、カスタマージャーニーにおける「店舗選び」と「購入」の段階で、これらの誘因に特化したマーケティング施策を実行した。ふさわしいモデルを広告イメージに起用する、新商品のお知らせを個人向けにカスタマイズする等である。こうした体験要素は、顧客の口から重要だと言及されたものではないが、感情的つながりを強めた。

 同社は一連の顧客体験全体(顧客とのコミュニケーションや潜在顧客の引き込みも含む)にわたって、感情的つながりに基づく戦略を展開した。その結果、感情的つながりを持つ顧客の割合は21%から26%に増え、離反率は37%から33%に減り、他者にブランドを推奨してくれる顧客の割合は24%から30%に向上。アクティブ顧客の数は15%増え、既存店売上高は50%以上伸びた。

 自社は顧客のどんな感情的つながりを強めたいのか。それらを正確に把握したうえで顧客体験を構築し、その絆を強める顧客接点に注力すべきである。これこそ、顧客生涯価値を高め、投資対効果を最大化してリスクを最小限に抑える効果的な方法だ。感情的つながりを持つ顧客は、より多くの価値をもたらしてくれるだけでなく、どの接点でも「この会社は自分を惹きつける」という思いを強めるのである。

 顧客体験の向上は必須だが、実行はきわめて難しく、そのコストも高い。そして顧客生涯価値の向上を願いながら、複数の機能部門にまたがる大きな投資に優先順位をつけて管理しなければならない。

 感情的つながりを顧客体験の最重要目標に据えることで、企業は投資を正しい方向に向けてより効果的に実行できる。そして、大きな経済的リターンを獲得できるのだ。


HBR.ORG原文:An Emotional Connection Matters More than Customer Satisfaction August 29, 2016

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アラン・ゾーファス(Alan Zorfas)
消費者情報の分析会社、モティスタ(Motista)の共同創業者兼最高インテリジェンス責任者。

ダニエル・リーモン(Daniel Leemon)
ベストプラクティスに関する知見と技術を提供するCEBのディレクター。モティスタのアドバイザーも務める。