イノベーションの創出のために部門横断や会社を越えた多様性の高いメンバーによるプロジェクトを立ち上げる企業は多いが、チームがまとまらず成果が生まれる前に解散となることも少なくない。博報堂のコンサルタントとして数多くのイノベーション・プロジェクトに関わり、「ファシリテーション型リーダーシップ講座」の講師も務める筆者が、多様性時代の新しいリーダーシップについて指摘する。
プロジェクトの成否が
企業の勝敗を決める時代へ
「部門を超えたプロジェクトの成否が企業の勝敗を決めるが、そのためのリーダーがいない。」
ある大手企業の役員のその一言が、ずっと頭を離れなかった。
筆者は広告会社のコンサルタントとして、大手企業の商品開発、ブランディング、企業ビジョン策定などのプロジェクト支援を行っている。これらのプロジェクトは部門横断型で行われることが多い。現場と本社、研究開発と営業など、同じ会社にいながらあまり接点が無い部門のメンバーから本音の議論を引き出すことが私の仕事だと言っても過言ではない。また、犬猿の仲と言われていた部門のキーマン同士が腹を割って話した結果、イノベーティブなアイデアが生まれるケースも珍しくない。
変化が激しい現代において、部門内で完結するルーチン作業が減り、部門を越えたプロジェクト型の業務が増えると言われている。なぜ部門横断型プロジェクトが増えているのか。また、部門間の壁を課題だと認識している企業が多いにもかかわらず、なぜそれを打ち破る人材が十分に育っていないのだろうか。本稿では、この点から議論を始めたい。
冒頭の役員に話を戻そう。大手食品企業で商品開発を担当するその役員が部門横断の重要性に気づいたきっかけは、ある商品の業務プロセス改革プロジェクトの時だったという。その商品は数年前に発売されて以来、業界トップシェアを保ち続けるヒット商品だったが、製造スピードが思うように上がらず、重要な時期に欠品になることもあった。しかも、役員が工場に何度も改善案を検討するように指示しても、一向に効果的なアイデアが上がってこない。そこで、その企業としては異例のことだったらしいが、開発担当の役員自ら工場の従業員全員を集めて商品プレゼンテーションを行った。そして、その商品が企業の屋台骨を支える重要な商品であること、ヒットの理由は工場の工程で行う面倒な一手間が生み出す美味しさにあること、欠品による機会ロスを減らすことが企業にとって必要であることなどを、写真やグラフを使いながら丁寧に説明した。
すると、「手間のかかる面倒な商品だな」と考えていた工場の従業員達が、その手間が強みになっていることを初めて知り、モチベーションが高まった。そして、工場現場から開発部へと部門の壁を越えて次々とアイデアが寄せられるようになったという。
現代の成熟市場を生き抜くには、部門の壁を取り払って知恵を出し合うしかない。特に大企業にとっては、商品のアイデアだけではすぐに真似されてしまう時代だからこそ、製造から販売までの複雑なプロセスの中で、他社が真似できない「仕組み」を競争力の源泉としていく必要がある。そして「仕組み」のイノベーションを実現するために欠かせないのが、部門を横断したプロジェクトの成功である。そう確信したのだと、先述の役員が私に語ってくれた。