リスクをとらなければイノベーションはない
実は、ポケモンGOにローンチパートナーとして参画すると決めたのは、ローンチの2ヶ月ほど前だった。つまり、まだポケモンGOが世の中で認知される前の段階であり、社会現象になると誰も予想していない頃であったが、この段階でパートナーとして組むことを決定した。
狙いは、新規顧客の獲得である。普段マクドナルドにあまり来られない方や、関心の薄い方々に対して利用するきっかけを提供できないかと考えてのことだった。流石にここまで社会現象になるとは思わなかったが、このゲームがある程度流行るだろうという読みはあった。
元々ポケモンGOは、イングレスというコアなユーザーに人気の高いゲームをベースとしており、そのインターフェースが、かつて大人気となったポケモンになるのであれば、ユーザーは一気に広がるだろう。さらに、AR(拡張現実)を活用してリアルにポケモンができるという点も、十分にニュース性があると思った。
またブランドとしても、ポケモンGOと組むことの意義も高い。もしマクドナルドが「安い・早い」というだけのファストフードのブランドであれば、客席の効率が低下するリスクがある施策は実施しないであろう。しかしマクドナルドは「Fun place to go」という言葉を掲げており、「店舗での楽しい食体験を提供する」ブランドだと定義している。だからこそ、ゲームとのタイアップを推進する意義があると考えたのだ。
しかも、小売りとは異なり、「客席のある」マクドナルドは、歩き回るゲームで遊んで、疲れたときに一息ついてもらうのにもぴったりなのだ。また「ポケモン」と「マクドナルド」はハッピーセットでも協業しておりブランドイメージも近い。だから、マクドナルドがやるしかないと考えたし、先方もそう言ってくださっていたので、まさに相思相愛のパートナーだといえる。
しかし不確実性の大きな案件でもあった。そもそも、ゲームとしてどれくらい流行るのかはわからない。ARのゲームという新しさは、逆に言うと前例のない案件であり、効果が数値で検証できないのだ。当然、この意思決定にはリスクはあった。ゲームがまったく流行らなかったら、パートナーとしての投資はロスになってしまう。
こうした不確実性の高い案件は、組織横断的に検討しても「収益性に懸念がある」「オペレーションに問題は発生しないのか」といったリスクだけが抽出され、得てして前に進まない。そのため今回は、他部門からのアドバイスはもらいながらも、数字の試算からオペレーションリスクの検証まで自ら手を動かし、企画をまとめてトップマネジメントに提案し承認を得て進めた。
今回のポケモンGOとのタイアップは、パートナーとしての投資はしたものの、そのプロモーションを広めるためのマーケティング費用は、事実上ゼロである。ポケモンGOのユーザーが、自らこの施策を広めてくれて、かつ来店してくださった。社内でこの施策の効果を試算したところ、明らかに投資以上のリターンを獲得できた。マクドナルドが自分たちで、これだけの認知を獲得するまでプロモーション活動を展開すれば膨大なマーケティング費用が掛かるが、ユーザーの皆さんが自分の言葉で広めてくださったのだ。自ら広めるのではなく、消費者に広めていただく。これこそ、まさに今マクドナルドが取り組んでいるマーケティング手法である。
※第2回につづく。