リリース1枚で爆発したポケモンGO現象
マクドナルドは、これまでマスメディアとデジタルメディアを用いたペイドメディアの効率化がマーケティングコミュニケーションの議論の中心であった。特に2015年は、過去最大の赤字を計上したこともあり、コスト削減が求められる中、リーチ効率を最重視していた。

慶應義塾大学法学部卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社。史上最年少(28歳)で部長に抜擢され、2015年には社長室長として全社の変革に貢献。2016年1月より、ナショナルマーケティング部長として、新商品のプロモーション活動や、メディア・アライアンスの企画・実行に責任を持つ。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。グロービスマネジメントスクール講師。共著に『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)。
これまで重視してきたペイドメディアの効率を、はるかにしのぐ効率を獲得した代表例となったのが、ポケモンGOとの一社独占でのローンチパートナーとしてのタイアップ企画である。実は、この件に関する告知は、メディアリリースの発信のみで、ペイドメディアは一切用いていない。しかしご存じの通り、たったそれだけで圧倒的な認知を獲得することができた。
ポケモンGOは、まずアメリカで2016年7月6日にローンチされ、瞬く間に世界中で大ブレイクした。その頃、日本では、ローンチがまだかまだかと期待が高まっている状況だった。そうした中で、海外のあるメディアが「日本のマクドナルドがポケモンGOとタイアップするようだ」という記事を掲載し、それが一瞬にして拡散し、ネットで大騒ぎとなった。「この話は本当か?」という質問が私自身にも多くの知人から届いたことをよく覚えている。
この時点で、マクドナルドからはまだ何も発信していない。しかし、あまりにも問い合わせが多く、ブランドに対してネガティブな影響も想定されたので、日本でのローンチ前の7月20日に、ニュースリリースを1枚出した。そこにはこう書かれている。
「日本マクドナルド株式会社は、『Pokémon GO』とのコラボレーションを近々実施する予定です。現在、サービススタート時のご不便がないよう、開発元が鋭意準備していると伺っております。環境が整い次第、速やかにコラボレーションの詳細を含め、ご報告させていただきます」
たったこれだけの内容だったが、世の中がポケモンGOに関する情報を欲している状態だったので、これをWebメディアが即座に掲載し、テレビのニュースや、新聞でも取り上げていただいた。そして、それを見た消費者がまたソーシャルで拡散したのだ。これにより、一瞬にして認知を獲得することができたのだ。結果として、リリース配信の前後で、マクドナルドに関するソーシャルでの言及数が3倍ほどに増えた。
そして、2日後の7月22日に、ポケモンGOは日本でローンチした。初日で1000万を超えるダウンロード数を達成する。マクドナルドの店舗は、ポケモンGOで遊ぶ上で大切なアイテムが獲得できる「ポケストップ」や「ジム」として指定されていたのだ。ローンチ前の告知から「マクドナルドに行くと何かある」ということをユーザーが認識していたので、店舗には、初日から大挙して押し寄せるという大変嬉しい事態となった。(写真②)その他の活動との相乗効果の結果、7月は既存店売上高で前年比+26.6%と、圧倒的な売上の伸びを示すことができた。