製薬会社イーライリリーでは、提携企業と共同開発した製品の成功には、提携当事者間の「対立による苛立ち」が寄与しているという。提携・協業における対立を、なくすのではなく適切に管理する要諦は何か。
真珠貝と提携(アライアンス)には共通点がある。それは、少しの「苛立ち」によって美しいものを生み出すことだ。提携パートナーとともに技術的・商業的に成功する製品を生むためには、両者の対立こそ必要なものかもしれない。
製薬会社のイーライリリー・アンド・カンパニーは、提携の健全性を評価するために、社内で提携に関する意見をアンケート調査している(Voice of the Alliance Survey)。これは提携した両社のメンバーが、戦略、オペレーション、文化の3領域における適合性の観点から提携を評価するものだ。質問の例として、「提携相手の持つ知識と情報が当社で自由に共有されているか」「提携相手は当社のアイデアや意見に積極的に耳を傾けているか」などがある。
提携の健全性(アンケートの評価に基づく)と、提携による製品の技術的・商業的な成功は、どう関連するのか。イーライリリーは先頃、これを解明するために14年分のアンケートのデータを分析した。
その結果は、実に興味深いものだった。なぜなら、イーライリリーの社員がパートナー企業に苛立ちを覚えた時ほど、技術的・商業的に成功する可能性が高かったからだ。
これは、提携相手が気に入らなかったということではない。むしろ通常は、相手に大いに敬意を持っている。提携の成否を分けていたのは、「生産的」な苛立ちだ。すなわち、提携製品の開発方法をめぐる見解の相違から生じる、創造的な緊張関係である。たとえば、分子を開発する最善の戦略と方針について意見が対立した時に、こうした苛立ちが表れる。
さらに興味深いことに、提携に関する相手企業からの評価と、その後の成功との間には、相関がなかった。成功を予測する際に重要なのは、あくまで、イーライリリーの社員が提携をどう考えたか、であった。
たとえば、イーライリリーと提携相手は、臨床試験の設計をめぐって意見が分かれるかもしれない。双方にとって、この設計の違いはリソース面に大きく影響する。両社の専門家は互いの考え方のメリットに異議を唱え、緊張がしばしば高まる。双方が最善の判断をしようともがくなか、プロフェッショナルとしての意見がぶつかり、苛立ちが生じるのである。
まさにこの種の苛立ちが、その後の技術的成功につながることが、14年分のアンケート調査のデータから示されたのである。
なぜこうした現象が起きるのだろうか。