――日米のCMOの違い、そして日本におけるCMOはどうあるべきでしょうか。それらの論点について、日本企業の現状を踏まえてお話しください。
日本市場はテクノロジー、ネットワーク、デバイスの使用において非常に先進的な市場ですが、日本企業は、組織としてはまだ従来型で、ヒエラルキーがあります。マーケティング組織におけるリーダー的立場の人は、デジタル変革に対し従来型の仕事の仕方に違和感を持っているようです。これがいま日本企業の直面している課題でしょう。日本企業のCMOは、なぜ遅れをとっているのか、私は実は疑問に思っていたのです。これは、技術的な問題ではなく、文化や考え方・思考態度の問題だと思うのです。

博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 局長
博報堂コンサルティング 代表取締役
共同CEO 慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程修了。都市銀行、戦略コンサルティング会社を経て、2001年、博報堂ブランドコンサルティングの立ち上げに参画。IMJとの合弁で設立した博報堂ネットプリズム代表取締役社長、日立製作所とのビッグデータ解析プロジェクト、マーケット・インテリジェンス・ラボの共同代表を歴任。2016年4月より現職。ITを活用したマーケティング改革を専門とする。
――日本におけるマーケティングはご存知のように宣伝中心です。また、企業はものづくりとセールスの二つを軸にして活動しているケースが多い。その中でマーケティングが価値創造の中心になるには、どのように転換すればいいのでしょうか。
それは、非常にいい質問だと思います。ここではっきりとさせておきたいのは、「変革」は、欧州や米国では、それぞれの業界で、その成熟度は異なったレベルにあるということです。ですから、すべての企業がこの移行を成し遂げたというわけではありません。さらにどの業界が先を行っているかを見ますと、何がきっかけとなっているのかのヒントを見出すことができます。
デジタル変革で先行している業界は、テクノロジー、金融、通信(テレコミュニケーション)、小売りです。こうした業界で共通しているのは、顧客と直接関わり合う回数が多い、つまり関わりの持てるチャネルをたくさん持っているということです。金融業界の企業であるなら、毎日のように顧客と関わり合っているでしょう。電子商取引を扱う企業、あるいは、小売業者であったら、膨大なデータを持っているわけですね。ですから、きっかけとしては、顧客との直接の関わりがある中で、突然、膨大な新しい情報源が手に入った。一方で、テクノロジーは、例えばソフトウェアの提供からサービスの提供へと移行したことから顧客のデータが手に入るようになりました。
例えばマイクロソフトのような会社を見てみましょう。マイクロソフト社は、ソフトウェアを販売していましたが、そのソフトウェアを使って人々が何をしていたかは、会社として全く把握していませんでした。しかし今や、ソフトウェアやサービスを販売すると、それがどのように使われているのかをモニターすることができるようになっています。毎日毎日、どのようなパターンで使われているのかを把握できるのです。このようにして、企業は顧客とより直接的な関わりを持つことができるようになりました。これが一つの顕著な要因だと思います。
米国で最初に顧客とのインタラクションを始めた業界は、アマゾンのようなネット販売業界です。こうした会社が、分析を行う際に手持ちの顧客データを活用した草分けです。こうした手法が、今や他の業界にも使われています。ですから、活用できるデータがあったことと、顧客とデジタルでインタラクションできる能力があったということです。
一方、B2Bの製造業者や不動産業者などは、この変革に追いついていません。消費財メーカーも相対的には変革が先に進んでいません。なぜなら、こうした企業は顧客との直接のインタラクションがないからです。まず消費財を市場に出して、それが卸や量販店などのパートナー経由で小売りへ行き渡るという流通過程を経るからです。しかし、それも今や変化をしています。ユニリーバやプロクター&ギャンブルやクラフトなどの会社は、この分野においても食い込んできています。電子取引で販売の向上を図るというよりも、ブランドの物語を語り、顧客とのエンゲージメントを図るという点です。
もう一つ考慮すべき点は、率直に言って、競争の原理です。競争が激しくなると、ゲームの仕方も変わってきます。競合他社がこの変革の方向に動いているなら、自分たちも乗り遅れてはならない、さもないと市場のシェアを失い始める、という厳然たる事実があります。たとえば、米国にベストバイという電化製品の小売業者があります。この会社は、アマゾンのおかげで、業務速度を上げ、業務遂行能力を高めることを余儀なくされています。ウォールマートにしても同じで、Jet.comという会社を買収するという大胆な手を打ちました。やはり、競合他社からのプレッシャーを感じていたのでしょう。ですから、きっかけとしては、顧客に関する要因、すなわち顧客データ分析と顧客とのインタラクションに関わる要因と、競争の原理に関わる要因、すなわち、自分もなにかしなければ、競争において行かれるという要因の二つがあると思います。
こうしたきっかけは、日本にも当てはまるのではないでしょうか。ですから、もっと大胆に動くべき会社は、まず、創造的破壊者から影響を受けている会社、次に、実際の購入まで顧客と直接インタラクションできる会社ではないでしょうか。
こうしたことが、きっかけとなっていると思います。
※第2回につづく。