BMWや他の自動車メーカーにとって、デジタルのビジネス原理を従来とは違うやり方で展開できるものが、もう1つある。それは、エンジンパワーのレンタルだ。
たとえばBMW3シリーズは、316、318、320のどれを購入するかによって、得られる馬力は110、150、または190に分かれる。しかし、3モデルにはすべて同じ4気筒エンジンが使われていることを知れば、驚く人もいるかもしれない。安いモデルのエンジンは、電子部品の制御によって高い馬力が出ないだけなのだ。
BMWは、ドライバーがエンジンパワーをアップグレードしたり、レンタルしたりできる車をつくるべきではないか。たとえば、日常のちょっとした運転のために150馬力の318モデルを購入した人は、車で旅行に出る際には190馬力をレンタルできる。あるいは、150馬力の車を購入し、3年後にさらに料金を払って追加の馬力を恒久的に解放する。機器の操作が問題であれば、アップグレードはディーラーにやってもらえばいい。
他業界のデジタルビジネスでは、このような無料/プレミアム/レンタルを交えたモデルが頻繁に見られる。フィットネスのアプリをダウンロードすれば、最初に無料体験版を試すことができ、後で料金を払えばプレミアム機能が使える。あるいは一部機能のレンタル、たとえば月額9.99ユーロで自分専用のトレーニング・プログラムを利用できる。
私が自動車業界の幹部から直接聞いた話では、エンジンのアップグレードを体系的に提供したくない理由は、顧客に古い車からよりパワフルな新車に買い替えて欲しいからだという。なるほど、もっともであろう。だがそれによって、新たな顧客と新たな収益機会を共に逸している可能性はないだろうか。
通勤時や、フランスの田舎道をドライブしている時には、190馬力のエンジンは明らかに必要ない(燃費が高くつくうえに、スピード違反の切符を切られる確率も高いため)。しかし、休暇でドイツに出かける場合、アウトバーンはスピート制限がないので190馬力は有用になりうる。BMW車にはすでに、電子制御による複数の走行モードが搭載されているのだから、馬力のコントロールもできるように思われる。