啓蒙の時代を経て訪れた「MBAの民主化」
――MBAシリーズが刊行されて、もう22年になります。この間、MBAやビジネススクールという言葉に対する社会の関心はどのように変わりましたか。

22年前では考えられないほど、それはもう浸透しました。グロービスMBAシリーズが定着しただけでなく、グロービス経営大学院にも多くのビジネスパーソンが通うようになりました。ビジネススクールも特に2000年代に入ってから、数自体も増加して、MBA、経営学修士自体が本当に身近な学位にもなったと感じています。弊社だけじゃなくて、世の中全体のMBAへの認知が高まったことは嬉しいですね。
90年代は「啓蒙の時代」で、MBAというとバスケットボール?と聞かれるという話があったように、そもそもMBAって何?とか、何の勉強をするの?というところから話がスタートしていました。その部分が浸透したことで、いまはそれをさらにわかりやすく伝えていくフェーズになったのではないでしょうか。
書店でもMBAとダイレクトにうたわなくても、たとえば『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』や『ラーメン二郎にまなぶ経営学』など、多くの人の関心を引くような経営の本が昔に比べると随分増えてきたかなと思います。社会全体として経営書に対する関心は高まっていると感じますね。
――いわばグロービスさんや、このMBAシリーズが日本のMBAの民主化の役割を果してきたという感じがします。
恐らくMBAというタイトルがついた本は、私たちが出す以前には、ほぼなかったと思うので、我々が自分たちで言うのもおこがましいですが、地道に90年代ぐらいから種をまいてきたものが、他にもたくさんのプレイヤーが増えてきて、2000年代以降に一気に花開いてきたように思います。コモディティ化したとは言いませんけど、知っている人は本当に増えましたね。
――さきほど90年代はMBAの啓蒙の時代とおっしゃいましたが、これからはどんな時代でしょうか。
いわゆる古いMBAが変わっていかなければならない時代になってきていると思います。90年時代までの戦略論を学び、マーケティング、アカウンティング、ファイナンスを学べば大丈夫という時代でもなくなってきている。
その一番の理由はテクノロジーの進化ですね。「テクノロジーとMBA」がものすごく重要なキーワードになっています。グロービスではテクノロジーとイノベートの造語で「テクノベート」とよんでいるのですが、経営を担う人がまずきちんとテクノロジーを学ぶべきだと。テクノベートの講義をいまはどんどん増やしています。
――なるほど。
アルゴリズムがどうとか、プログラミングとはどういうことなのかも含めて、テクノロジーを理解できなければ、価値を出せない時代になってきているので、そこがいま、一番の進化すべきポイントかなと。
――では次に目指すのは、テクノベートの民主化ですね。最後に、3月に刊行された『[新版]グロービスMBA経営戦略』は、18年ぶりの改定になりました。どのような方に読んでほしいと思われますか。

これはもうビジネスパーソンであれば全員ですね(笑)。そう言ってしまうと広すぎるかもしれませんが、戦略を間違うことの痛さは、18年前と比べものにならないほど、皆さんが実感していることだと思います。少し前まで好調だった大企業がすぐにライバルに代替されてしまったり、思いもよらないところからライバルが出現する時代になっている。
グローバルで非常にタフな相手と戦っている方とか、起業したい方とか…。ほとんどの産業が当てはまってしまうかもしれませんが、とにかく何かしらこのままやっていては駄目だと思われている方に読んで欲しいですね。戦略の考え方は、すべてのベースになると思います。そして、特に30代ぐらいのこれからの日本を背負って立つような方に読んでいただきたいと思います。
――今回、内容は大幅に入れ替えたのですか。
がらっと変わっていますね。全ての章を書き換えましたし、時代に合わせて新しいテーマを追加しています。また、旧版では、ポーターに代表されるいわゆるポジショニング論を前提としていましたが、その前提も取り去って、様々な観点を入れました。歯ごたえはある本だなと。2800円出していただいて勉強される人にとっては価値が十分ある本になっていると思いますね。