●家で読書を中心に据える

 1998年、心理学者のロイ・バウマイスターらが、有名な「チョコチップクッキーとラディッシュ」実験を実施した。被験者を3つのグループに分け、実験前は3時間何も食べないよう全員に依頼。グループ1にはチョコチップクッキーとラディッシュを渡し、食べていいのはラディッシュだけだと伝えた。グループ2にもチョコチップクッキーとラディッシュを渡し、どちらでも好きなほうを食べていいと伝えた。グループ3には食べ物を何も与えなかった。その後、3グループの全員に、正解のないパズルをやってもらい、どの程度の時間で諦めるかを調べたのである。すると当然ながら、グループ1はクッキーを食べないよう我慢することで意志力を使い果たしてしまい、諦めるのが最も早かった。

 それが読書とどんな関係があるのだろうか?長く過ごすリビングルームにテレビを置いておくのは、チョコチップクッキーを盛った皿を置くようなものではないだろうか。楽しいテレビ番組の誘惑と闘うことで、読書に向かう意志力を消耗してしまうのだ。

 ロアルド・ダールの詩『テレビ』は、このことをよく表している。「だから、お願いです、後生ですから/どうかテレビを捨ててください/そしてその代わりに/壁際に素敵な本棚を置いてください」

 私と妻は昨年、家に1台しかないテレビを暗くて未完成の地下室に移し、玄関ドアの横に本棚を置いた。いまではその本棚を目にし、側を歩き、1日に何十回も手をのばす。そして、テレビをつけるのは、トロント・ブルージェイズがプレーオフに進出したときと、ネットフリックスで「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の新シリーズが始まるときだけになった。

 ●読書を公のコミットメントにする

 名著『影響力の武器』でロバート・チャルディーニは、ある心理学研究を紹介している。特定の競走馬に賭けた人は、賭ける前と比べて格段に、その馬が勝つ可能性への自信を深めるという。この事例から、社会的影響力を持つ6つの強力な武器の内の1つが、コミットメントであることを説明している。

 そこで、自分を競走馬だと考えてみてはどうだろうか。GoodreadsRecoのようなサイトにアカウントを開設し、読書の意思を表明するのである。同僚や友人を何人か誘って登録してもらい、本を読むたびに自分のプロフィールを更新すればいい。あるいは、メーリング・リストをつくり、読んだ本について短いレビューを送るのもいいだろう。私自身、「マンスリー・ブック・クラブ・メール」でそれを毎月行っている。このアイデアは、ベストセラー作家のライアン・ホリデーから拝借した。ちなみに、ホリデーの読書リストもお勧めだ。

 ●信頼できる選りすぐりの読書リストを見つける

 これは上の項目に関連している。出版業界が刊行する本の数は、年間5万冊を超える。毎週1000冊もの新刊に目を通すことなど不可能だ。だから、私たちはアマゾンのレビューなどに頼ることになる。

 しかし、小売業界が勧めるままに読書リストをつくってよいものだろうか。あなたも私と同類で、独立系書店の「書店員のお勧め」を気に入っているなら、誰かのお気に入り本リストを見つけるのが一番だ。信頼できる人が選んで読んでいる本のリストを見つけるのは、メーリング・リストをつくるのと同じくらい簡単だが、少し手間をかければ、ずばり自分好みの読書リストを見つけられるはずだ。

 個人的に気に入っているのは、ビル・ゲイツの読書リストや、起業家デレク・シヴァーズの読書リストなどだ。起業家でベストセラー作家でもあるティモシー・フェリスの読書リストには、フェリスのポッドキャスト・ゲストが勧める本のリストも集められている。

 ●途中でやめるのは悪いことではない

 本を途中で放り出すと、後味の悪い思いをするかもしれない。その一方で、途中で読むのをやめたことを誇りに思うこともできる。考え方を変えればいいだけのことだ。「やれやれ、やっとこいつとおさらばできたから、素晴らしい本を読めるぞ」と言うだけでいい。

 こうした考え方を後押ししてくれるのが、ティム・アーバンのThe Tail End(最後尾)という記事だ。残りの人生で自分がどれだけの本を読めるか、図で明快に気づかせてくれる。その数をしっかり飲み込んだら、余計ないばらは思い切って根元から切り落とし、その先に待っているオアシスを見つけたくなるはずだ。

 私は1冊読破する間に3~4冊を途中で読むのをやめる。本を買うときは必ず、「最初の5ページ・テスト」をして雰囲気やペース、言葉遣いをチェックするし、途中でやめることになっても、自分を責めたりはしない。

 ●「ニュース断ち」して本にお金を使う

 私は何年もの間、『ニューヨーク・タイムズ』紙と5つの雑誌を定期購読していた。新鮮さを保つために購読する雑誌を定期的に変え、郵便箱の中に新刊号を見つけるのが好きだった。しかしあるとき、長い休暇を取り、本に没頭する時間を持つことができた。休暇から自宅に帰ったとき、新聞や雑誌をちらちら取り留めなく読んでいると、深く掘り下げることができないことに気づいた。そこで私は、すべての購読をキャンセルしたのだ。

 ニュースのインプットを止めたことで、本に振り向ける心の余裕が生まれただけでなく、他のメリットも生まれた。私の場合、年間500ドル節約できた。1年で約50冊の本が買える金額だ。10年、20年後にはどうなるか考えてみよう。古新聞の山の代わりに、貴重な本のコレクションが手に入る。しかも、その間それらの本を読み、学ぶことができる。近くの図書館を利用するのもいいだろう。ブラウザに「ライブラリー・エクステンション」をダウンロードすれば、地元の図書館でどんな本や電子書籍が無料ですぐ利用できるか、即座に知ることができる。

 ●本棚の回転率を3倍にする

 私は長年、本棚は固定された飾りのようなものだと思っていた。いつも花瓶の隣にたたずんでいるようなものだ、と。

 いまでは、ダイナミックに変化する有機体のようなものと思っている。いつも動きがあり、変化し続けている。たとえば1週間の間に、5冊本を加え、3~4冊取り除く。本の入手先は、近所の「無料貸出ライブラリー」や魅力ある古本屋、近くの書店やチェーン店、そして言うまでもなくオンラインストアだ。本を手放すときは、友人にあげたり、古書店に売ったり、無料貸出ライブラリーに寄贈したりする。

 こうしたダイナミズムが生まれたため、私は本棚を通り過ぎるのではなく、いつも本棚を目指して歩くようになった。その結果、読む本が増えたのだ。

 ●紙の本を読む

 どうしてモバイル・デバイスを使って電子書籍だけを読むようにしないのか、と思っているかもしれない。そうすれば、本を家に持ち込んだり持ち出したりする手間が省ける。だが、ビデオや映画、写真のコレクションがすべてデジタルになりつつある時代に、有機的に成長する本のコレクションを自宅に持つことで、地に足が着いている感じがする。もう少し深い表現をするなら、読んでいる間に知性が発展し変化していく様子を紙の本が具現化してくれる(だからこそ妻は、私の『ファー・サイド』[訳注:1980年から1995年まで新聞に連載されたゲイリー・ラーソン作の一コマ風刺漫画]のコレクションを彼女の棚には置かせてくれないのかもしれない)。また、今は1日中スクリーンを見ていることが多いので、紙の本を手に取るだけでよい気分転換になる。

 ●1万歩ルールを復活する

 ある親友から聞いた、忘れられない話がある。スティーヴン・キングは、1日5時間ほど本を読むといい、と言ったそうだ。それを聞いて親友はこう答えたという。「そんなムチャな。そんなこと誰にもできないよ」。

 しかし、その数年後、親友が休暇でメーン州に行ったときのこと。ガールフレンドと映画館の列に並んでいたら、すぐ前にいた人がなんと、スティーヴン・キングだったのだ!並んでいる間、キングはずっと本を読んでいた。映画館に入ってからも、明かりが消えるまで読み続けていた。明かりがつくと、即座に本を取り出した。映画館を出るときも読み続けていたという。

 スティーヴン・キングに確認はしていないが、このエピソードが教えてくれるメッセージは重要だ。基本的に、あなたはもっとずっと多くの本を読めるのだ。1日のうちには、有効に使える短い空き時間がたくさん存在する。それを合計すれば相当の時間になるからだ。

 ある意味で、これは1日1万歩ルールに似ている。スーパーマーケットまで遠回りして歩いたり、少し離れたところに駐車したり、家のまわりで子供のあとを追いかけたりしているうちに、すぐに1万歩に達する。

 読書も同じだ。

 1年に5冊しか読んでいなかったころは、どんなときに読書していたか。休暇や長時間飛行機に乗るときなどだ。「さあ、長い空き時間ができるぞ。本を2、3冊持って行こう」と考えたものだ。

 いまではどんなときに読んでいるか。いつも、である。ここで数ページ、あそこで数ページ。カバンにはいつも本が入っている。原則として、気持ちが積極的に学びたい状態になる午前中はノンフィクションを読み、逃避が必要な夜は、寝る前にフィクションを読んでいる。ちょっとした空き時間に数ページずつ読み進めることで、たくさんの本が読めるようになるのだ。

 それでは、幸せな読書を。


HBR.ORG原文:8 Ways to Read (a Lot) More Books This Year February 03, 2017

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ニール・パスリチャ(Neil Pasricha)
心に雨が降った日に開く本』のベストセラー作家。近著The Happiness Equationがある。彼のTEDトークは再生回数250万回を超え、最もインスパイアされるトークとして知られる。スーパーマーケット最大手ウォルマートのリーダーシップ育成に10年を費やし、現在はグローバルハピネス研究所のディレクターとして組織の幸福レベルを高めることを使命としている。