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IoT、AI、ビッグデータなどの先端技術の活用は、ものづくり分野から普及し、昨今は金融と結びついて「フィンテック」が注目され、さらに農業分野と融合して「アグリテック」へと広がりを見せている。国内では、政府関係府省がイニシアティブをとる形で、農業関連情報の整備と基盤の構築が進んでいる。データの利活用が伝統産業である農業にもたらすインパクトとは何か。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIOも務める慶應義塾大学の神成淳司准教授に伺った。
データの標準化、情報基盤の整備が進む農業ICT
――農業と先端技術が融合した「アグリテック」が世界的に広がっていますが、国内においては、農業はIT化が最も遅れている産業分野ともいわれています。ICT活用の現状について伺います。

農業におけるICTは、主に生産管理の効率化の手段として使われ、多くの農業ICTシステムが提供されていますが、その活用は一部の先進的な農家に留まり、まだまだ一般的ではありません。そこで、政府は2014年に「農業情報創成・流通促進戦略」を策定。農業情報のインターオペラビリティ(相互運用性)とデータポータビリティ(可搬性)を念頭に、農業分野全体における情報の利活用の促進に向け、先駆的な取り組みを展開してきました。
最初に着手したのが「データの標準化」です。内閣官房IT総合戦略室が関係府省と連携して、それまで産地や作物ごとに異なっていた農作業や農作物の名称、温度や湿度などの環境情報などについて、用語の統一とデータの標準化を行いました。プロジェクトのスタートから約3年が経過し、ようやくその目処がついたところです。
第2段階として取り組んでいるのが、「農業データ連携基盤(データプラットフォーム)」の構築です。ITベンダーや農機メーカー、関係府省など産官学が連携して異なるシステム間でデータ連携を可能とし、気象や土壌などのオープンデータや企業の有償データも提供するプラットフォームで、2017年中にプロトタイプの運用を開始する予定です。
農業分野のICTにおける各種データは、これまで「競争領域」と「協調領域」が混沌としていました。地図や気象、市況などの公的データを含め、あらゆるデータを各ベンダーで揃えようとするとコスト高になってしまい、結局、農家が払うサービス利用料にコストが転嫁されてしまいます。そうではなくて、協調領域に属するデータに関してはデータプラットフォームを整備することで、できるだけ安く良質な情報を提供していきたいと考えました。
――農業のICT活用が目指すところは、農家の高齢化や後継者不足といった問題の解決でしょうか。
熟練農家の「暗黙知」を「形式知」に変換、継承していくことで、日本の農業を付加価値の高い産業に変革していくことです。かつての日本経済を牽引した製造業は、規模の経済が働き、大規模化が可能なことからコスト競争に陥ってしまいました。一方の農業は、状況依存性が高く、クリティカルパスが書きにくい(最適解が得られにくい)ため、コストが付加価値の源泉になりにくく、それだけ潜在成長力が高いのです。私たちは、伝統的な産業である農業こそが21世紀の日本の成長産業だと考えています。