クイズ形式で回答する学習支援システムも開発
――「AI農業」は具体的にどのようなシステムで構成されているのですか。

基盤プラットフォームの構成要素は、「①視覚情報分析ツール」「②判断入力ツール」「③対象作物・圃場環境の定量的測定ツール」という3つです。これらを使って十分なインプットを行ったうえで、その入力データから、熟練農家は作物のどこを見て判断しているのか、作物がどのような状態で、環境がどんな状況のときに新たな判断をしているのかといった「熟練農家の気づき」を解析します。また、経験の浅い農家の気づきと比較して、熟練農家の熟練者たるゆえんや、経験の浅い人の問題点をあぶり出します。
たとえば、「①視覚情報分析ツール」では、アイカメラ(モバイル型眼球運動計測装置)を用いて視線データを計測します。このツールを用いると、熟練農家が無意識に目を向けている部分がわかります。事前のアンケートでは、判断の理由を「葉の形」などと答えていても、アイカメラで解析してみると葉を見ている時間はごくわずかで、茎の状態を見て行動していることもありました。
視覚情報分析ツールによって、熟練農家の「目のつけどころ」が明らかになり、経験の浅い人が同じところを見たとしても、熟練農家と同じように適切な判断が下せるわけではありません。そこで、熟練性を継承するシステムとして、現在、農業技術学習支援システムの構築に取り組んでいます。このシステムでは、熟練農家が見ている農作物の画像が現れ、そこに写っている状態を見てどう判断するかをクイズ形式で回答できるようになっています。
学習者は20分程度かけて10~20問の問題を解いていくだけです。これを1週間、1カ月と継続していけば、従来は何年もかかって学んでいたことを、その何分の1の時間で身につけることができます。
――「AI農業」が描く、日本の農業の未来像とは。
最初は、未経験者や新規参入者の失敗を減らすことでしょうね。農業の世界ではよく「水やり10年」といわれますが、10年経ってようやく一人前になるのでは遅いわけです。せめて「水やり3~5年」になるよう、個々の熟練農家に閉ざされた知見をオープンにし、地域単位、全国単位の取り組みへと広げていきたい。「AI農業」の目的は、足元にある日本の農業の課題を解決することではありません。日本の農業を持続可能な産業へと変えていく、ドラスチックな戦略なのです。
(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)