●ファーストビルドという実験
GEアプライアンスが2014年の中頃に立ち上げたファーストビルドは、ゼネラル・エレクトリック(GE)の支援によるイノベーション・ラボ兼マイクロファクトリー(小規模製造施設)である。その目的は、起業家精神に富むスタートアップの長所を老舗企業に取り入れて、補強することだ。
ここで重要なのは、独立性である。ファーストビルドは独自のブランド名で、独立した組織として運営されている。したがって、「伝統的企業の文化を変革する取り組み」とは明らかに一線を画している。
米ケンタッキー州ルイビルにあるファーストビルドの施設は、ルイビル大学のキャンパス北東の一角に位置する。GEアプライアンスの本社から数キロしか離れていないが、そこはまったくの別世界である。なぜなら、工業デザイナーや科学者、エンジニア、学生、機械いじりが好きなアマチュアなどが、ファーストビルドの社員と協働し、画期的な家電を設計・製造・販売するオープンコミュニティなのだ。
ファーストビルド側の専従スタッフは少数で、ディレクター、オペレーションリーダー、販売リーダーなどが含まれる。これらは他の同規模の企業でも一般的に見られる役割だが、それに加えてコミュニティ・マネジャーという人たちがいる。彼らの役目は、ファーストビルドがイノベーターを惹きつけて強固なコミュニティを育むよう万全を期すことだ。
GEアプライアンスや他の大手消費財メーカーが追求しているのは、独占的な知的財産だ。これとは対照的に、コミュニティとしてのファーストビルドはオープンソース型のイノベーションを目指している。同施設は訪問者や発明家を暖かく迎え入れる。そこで生み出されたイノベーションは秘密に包まれることなく、惜しみなく公開されている。
ファーストビルドはオープンゆえに、他の誰かにアイデアを商品化されないよう、素早く行動しなければならない。したがって、ファーストビルドはスピードを追求するようにつくられており、発明のためだけでなく、新製品の試作・製造・商品化を迅速にすべく能力を集結させている。
同コミュニティでは、製品コンセプトの立案からデザイン、作成、製造、販売に至るまでの全工程を最小規模で行う。通常、新商品を製造・販売する数量(ロット)は1000個ほどだ。需要がその数字を上回ったら、市場に受け入れられたと見なされる。商品はこの段階で親会社であるGEアプライアンスのラインに加えられる可能性があり、その場合はコミュニティ内の発明者に総売上高の一部が還元される。
特筆すべきは、支払いを受け取ったメンバーは、その後も自分の発明を他社に売り込めるということであり、そこにはGEアプライアンスの競合相手も含まれる。GEアプライアンスにとってのメリットは、市場の先駆者という強力な優位性を得ることである。
ファーストビルドはすでに、注目に値する成功をいくつか収めている。その1つが、お手頃価格の家庭用ナゲットアイス製氷機オパール(Opal)だ。ナゲットアイスとは小粒で柔らかな氷で、サクサクと噛み砕けてフレーバーを維持できることから、飲食店でよく使われる。冷えたアルミニウムシリンダーから氷片が掻き出されてつくられ、体積の約半分が空気なので、非常に柔らかく風味豊かになるわけだ。
オパールのアイデアの発端は、コミュニティの1人がファーストビルドのウェブフォーラムに書き込んだ投稿である。みんなナゲットアイスが大好きだ、それならば家庭用ナゲットアイス製氷機を提供したらどうだろう、と。
こうしてファーストビルドのマイクロファクトリーで試作品がつくられ、クラウドファンディングサイトのインディゴーゴーでキャンペーンを開始すると、瞬く間に300万ドルの資金が集まった。さらにeコマースによる販売で300万ドルの純利益を上げ、希望小売価格を329ドルから499ドルに上げた後も需要は衰えなかった。
ファーストビルドによるもう1つの発明、モノグラム・ピザオーブンは、GEアプライアンスの高級ラインであるモノグラムに最近加わり、プロ仕様のヨーロッパ風ウォールオーブンの1つとして売り出されている。
消費者の中には、専門店クオリティのピザを自宅で焼こうと、わざわざ裏庭に薪釜のピザオーブンを設置している人がたくさんいる――ファーストビルドのコミュニティはここに注目した。コンパクトな室内用のモノグラム・ピザオーブンは、そんな独特の体験を家庭のキッチンで可能にし、ナポリ風ピザを2分足らずで焼き上げる。