●スマート家電

 ファーストビルドが特に力を入れているのは、新世代スマート家電の発明に技術人材を引き込むことだ。それが表れている好例はチルハブ(ChillHub)である。意欲的な発明家に対して「可能性のプラットフォーム」を提供すべく、発案・開発された冷蔵庫だ。

 チルハブには、4ポート付きのUSBハブが2つとWi-Fi機能が内蔵されている。ファーストビルドのコミュニティの発明家たちは目下これを土台として、スマート機能の開発に取り組んでいる。自動給水ピッチャー、脱臭機、細菌センサー、さらには牛乳が空に近づいたら通知してくれるセンサーなどだ。

 ファーストビルドから生まれたスマート家電のイノベーションは他にも、ブルートゥース対応の温度センサーが付いた高精度IHコンロスマートワイン保冷庫、視力障がい者のための音声ガイド付き洗濯乾燥機(英語とスペイン語に対応)などがある。

 コミュニティのメンバーはいまや1万2000人を超え、GEアプライアンスに対して限りなく広範囲のアイデアを解放している。かたやファーストビルドとしての事業は最小規模だからこそ、起業家らしいスピード感で動くことができる。

 さらに素晴らしいのは、それらのメリットを実質ノーコストで得られることだ。ファーストビルドの売上高と利益率は順調に推移しており、2018年には完全に自己資金で運営できる見込みだ。

●実験を別の場所で再現

 ハイアールが2016年にGEアプライアンスを買収した後も、ファーストビルドという実験の有効性は引き続き健在だ。上海でファーストビルドを再現する計画が進んでおり、コミュニティはIoTデバイスのイノベーションに注力する予定である。

 では、他の伝統的大手製造企業は、ファーストビルドの事例を模倣できるだろうか。また、模倣すべきだろうか。これまで50社あまりのフォーチュン1000企業の人々がファーストビルドを訪れ、その多くがコンセプトを見習いたいと関心を示している。

 後に続きたいと願う企業を支援するために、ファーストビルドの関連会社は近々プラットフォームを提供する。クリエイティブな人々のコミュニティを結集させ、イノベーションに取り組む場だ。その名は、イノベーションの高揚感を祝してGiddy(ギディ:「目まいがするほど嬉しい」の意)といい、2017年9月に立ち上がる予定だ。

 ファーストビルドが多くにとって説得力のある先例になることを、筆者らは期待している。市場をリードするイノベーションは本来、市場をリードする成長につながるが、それは(すでに成熟した)大企業では本質的に実現困難なものでもある。ファーストビルドのモデルは、この重大なジレンマの解決に大きく役立つだろう。


HBR.ORG原文:How GE Appliances Built an Innovation Lab to Rapidly Prototype Products  July 21, 2017

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バーラット・カプール(Bharat Kapoor)
A.T.カーニー シカゴオフィスのプリンシパル。専門はIoT、価値創造のためのデザインと製品開発、M&A。

ケビン・ノーラン(Kevin Nolan)
ハイアール傘下GEアプライアンスのプレジデント兼CEO。前職ではGEアプライアンスの最高技術責任者として、ファーストビルドの創設で中心的役割を担った。

ナタラジャン・ベンカタクリシュナン(Natarajan "Venkat" Venkatakrishnan)
ハイアール傘下GEアプライアンスの先端技術部門ディレクター。2013~2016年にファーストビルドのCEOを務めた。