早稲田大学ビジネススクールの教授陣がおくる人気連載「早稲田大学ビジネススクール経営講座」。10人目にご登場頂くのはマーケティング論、イノベーション論がご専門の川上智子教授だ。「オープン・イノベーション」をテーマに、全3回でお届けする。近年注目を集めるオープン・イノベーションを、マーケティングの観点から考察することで、企業と消費者、他企業などとの間に、新たなネットワークがどのように形成されるのか。そして、その際に直面する課題は何かを考えていく。

いまなぜ「オープン・イノベーション」なのか

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川上智子 (かわかみ・ともこ)
早稲田大学ビジネススクール教授。 ミノルタカメラ株式会社(現コニカミノルタ株式会社)を経て、関西大学教授、ワシントン大学ビジネススクール客員研究員・連携教授、ナンヤン理工大学アジア消費者インサイト研究所リサーチフェロー等を歴任。2015年4月より現職。Journal of Product Innovation Management編集委員。日本マーケティング学会理事,日本商業学会理事も務める。専門はマーケティング論、イノベーション論。

 2000年代に入り、オープン・イノベーションが注目され始めた。日本でも最近,オープン・イノベーションに関する多くの書籍が出版されている(注1)。

 いまなぜ「オープン・イノベーション」なのか。その背景には、市場変化のスピードが速く、変化の方向性も予測しづらい競争環境の中で、短期間で高度な専門知識を幅広く入手するために、内部だけでなく、外部に目を向けざるを得なくなったという事情がある。くわえて、インターネットのブロードバンド化やソーシャルメディアの発達といったICT技術の発展によって、組織を超えた情報の流れが格段に速くなった。要するに、必要性と実現可能性という両方の条件がそろったことで、オープン・イノベーションが注目されるようになったのである。

 欧米でオープン・イノベーションが注目され始めた直接的なきっかけは、2003年にハーバード大学のヘンリー・チェスブロウ教授の『オープン・イノベーション』が出版されたことによる。彼は、ビジネスのパラダイムチェンジとして、オープン・イノベーションの概念を提唱した。彼の定義によれば、オープン・イノベーションとは「組織内のイノベーションを加速化させ、イノベーションの外部利用のための市場を広げるために、知識の対内的・対外的な流れを意図的に作り出し、利用すること」である。