これらの初期の事例が示唆するのは、オープン・イノベーションの根本には、自社内だけでは容易に入手できない知識が世の中には散在し、だからこそ、その時々でベストな相手を探して、知識を相互に流通させる方が社会全体にとって有益だという発想があることだ。

 言い換えれば、企業間の系列化のような特定の相手との長期継続的な関係ではなく、いつでも切り替え可能なフレキシビリティがオープン・イノベーションのポイントである。それには、当然ながら探索や調整のコストがかかる。いわゆる取引コストと称されるものである。探索自体はICTの発達で容易になっているが、調整のコストは見落とされがちである。オープン・イノベーションを図る際には、それらのコストを上回るメリットがあるかの判断が必要である。

 オープン・イノベーションに関して強調しておきたいポイントがもう1つある。それは、冒頭でも述べたとおり、オープン・イノベーションは、必ずしも技術面だけに限定されるものではないということだ。

 オープン・イノベーションの成功事例としては、P&Gのコネクト&ディベロップがよく知られている。2000年代初頭、低成長を続けていたP&Gは、同社のイノベーションの50%を外部との提携で実現するという目標を立て、2005年にはその目標を達成した。

 こうした問題解決型のオープン・イノベーションは、どちらかというと技術分野に注目が集まりがちである。しかし、たとえば、ソーシャルメディア等の情報通信技術(ICT)を活用し、消費者の集合体から問題解決のアイデアを募るクラウド・ソーシング型の新製品開発も、オープン・イノベーションの範疇に含まれる。あるいは、イノベーションをより広義にとらえ、事業の仕組みの変化による収益化と考えれば、クラウド・ファンディングやデザイン・コンテストのように、ファイナンスやインダストリアル・デザインといった分野にも、オープン・イノベーションは広がっていると見ることもできる。