マーケティングの視点を取り入れた4分類

 さて、このように述べるとチェスブロウの定義をますます広げていると感じられるかもしれない。ここでは、オープン・イノベーションの類型を2つの軸で分け、論点を整理する。2つの軸のうち、1つは知識の流れる方向という軸、もう1つは技術分野かマーケティング分野かという軸である(表1)。

 表1に示したとおり、知識が流れる方向としては、インバウンド(内向き)とアウトバウンド(外向き)の両方がある。たとえば、技術分野では、新しい知識を外部から獲得するインバウンドだけでなく、自社の休眠特許をライセンスし、収益化するアウトバウンドの流れを創り出すことも、オープン・イノベーションの1つのタイプといえる。

 もう1つの技術分野かマーケティング分野かという軸は、イノベーションが技術情報と市場情報の結びつきによって生じるという、知識ベース理論(Knowledge-based view)の考え方に基づいている。知識ベース理論とは、経営学を知識という観点で見る理論体系で、企業が情報処理や知識創造を行う主体であるといった議論を展開するものだ。イノベーション分野では、異なる専門知識の結びつきによってイノベーションが生じるという見方をする。技術情報は主に研究開発部門、市場情報は主にマーケティング部門が収集し、社内で共有を図ることで、企業のイノベーションは実現されている(注3)。

 したがって、イノベーションの発生には、技術かマーケティングかの二者択一ではなく、両方の結びつきが重要である。しかし、現在のオープン・イノベーションの議論は、どちらかというと技術分野を中心に展開されている。

 では、表1に示した4つのタイプをTI型、TO型、MI型、MO型と名付け、特にマーケティング分野のMI型、MO型に注目して考えよう。