この問題については、経済学者や経営学者により20年以上にわたって算定されてきたが、つい最近までは、ほぼすべての研究で同じ結果が出ていた。学歴、仕事の経験年数、スキル、職務が同様のゲイ男性と異性愛男性の所得を比較すると、ゲイ男性のほうが一貫して低かった(5~10%低い)。この結果は非常に一貫性があり、複数の異なる国々(カナダ、英国、米国を含む)と時期における多数のデータセットで同じように示され、不動であるように思われた。
だが、それも過去の話だ。私と博士課程学生は、2017年8月に発表した論文の中で、大規模な全米調査のデータを分析した。このデータ(2013~15年の全米健康インタビュー調査)を使用した関連論文は今回が初めてだが、それはおそらく、同調査で性的指向を尋ねるようになったのが最近のことだからだろう。
分析の結果、ゲイ男性の所得の相対的マイナスは解消されたことが明らかになった。それどころか、10%の相対的プラスに転じていた。つまり、近年のゲイ男性は、学歴、職歴、職務が同様の異性愛男性よりも、かなり多い所得を得ていたのだ。
我々は、発表済みの文献を読み直し、自分たちの選択した測定法や仕様が新規もしくは風変りなものなのかを確かめてみたが、そのようなことはなかった。また、データセットを2度、3度とチェックし、他に根本的な過ちやデータの問題がないか検証したが、見つからなかった。他にも多数の追加的検証を行い、ゲイ男性のほうが高所得という結果が覆されないか確認してみたが、結論は変わらなかった。
これが現実であることを受け入れた我々は、その理解と説明に取り掛かった。
最初に頭に浮かんだ最も単純な説明は、ダン・サベージの言葉、「状況はよくなっていく」だ。ゲイ男性の所得は相対的に低いという、かつての文献でほぼ普遍的であった知見については、労働市場によるゲイ男性への差別の結果であるというのが1つの解釈であった。それが事実ならば、LGBTQへの態度の改善によって、当然ながら所得格差は解消に向かうだろう。
この可能性は、文献におけるいくつかのパターンでも裏付けられており、たとえば近年の2つの例がある。十分にコントロールされたフィールド実験で、プロフィールをゲイまたは異性愛者のいずれかであるように操作した「偽の」就職志望者の間で、採用結果に有意な差異は見出されなかった(2013年に実施された実験では、SNS上での志望者のプロフィールに、男性または女性に「関心がある」ことを明記。2010年の実験では、志望者の履歴書に、LGBT関連の学生グループまたはそうでないグループでのリーダー経験を記載)。
これらの結果は、履歴書を用いた2005年の対照実験の結果とは、まったく対照的である。そこでも同様にLGBT学生グループの手法を用いているが、雇用者から面接を求める電話がかかってくる割合にかなりの差が見られ、異性愛の志望者のほうが有利であった。その差は、よく知られているバートランドとムッライナタンによる「エミリーとグレッグ対ラキーシャとジャマール」の履歴書実験における、有色人種と白人への電話の差と同じくらい大きかった。
これらの実験から読み取れるパターンは、LGBTQの人々に対する態度が改善すれば職場での処遇改善につながる、という仮説と明らかに一致する。
とはいえ、「状況はよくなっていく」説に合致しにくいパターンもいくつか存在する。まず、この説は所得の相対的低さが次第に解消した理由を説明するうえでは合理的と思われる一方で、所得の相対的高さが見られるようになった理由としては十分でないと思われる(本当に、それほどよくなったのだろうか)。
次に、我々の研究では、異性愛男性とゲイ男性の相対的所得について、以前の研究とは大きく異なる結果が得られた(マイナスがプラスに転じていた)ものの、女性に関する我々の比較分析では、数十年来の発表済み研究とほぼ同じ結果が認められている。
過去の研究では、学歴、職歴、スキル、職務が同様のレズビアンと異性愛の女性では、レズビアンのほうが高所得の傾向にあることが示されている。別のデータを使用した我々の推計では、これら既存研究と一致する結果であった。ゲイ男性にとって状況はよくなっているのは本当のようだが、レズビアンにとっては、(元来よかったものが)「さらによく」なってはいないようだ。
結局のところ、ゲイ男性の所得の相対的マイナスが解消されてプラスに転じた理由を説明する有力な方法を、我々は持っていない。だが今回の知見からは、今後の研究のためのアプローチがいくつか示唆される。