第1に、性的指向と職場での処遇、学歴、職歴、職務属性に関する情報を扱う大規模な全米調査はますます増えている。研究者は、我々が特定したゲイ男性の相対的高所得が最近の他の調査でも見られるかどうか、確かめるべきだ。
第2に、性的指向に関する職場態度の性質と、それがゲイ男性とレズビアンとの間ではどう異なるのかを理解するには、さらなる研究が必要とされる。前述のように、過去20年の研究のほとんどで、相対的にゲイ男性は低所得であり、レズビアンは高所得という一貫した根拠が得られている。したがって、性的指向に関連する職場の力学が、性的少数派の男性と女性とで異なるのは明らかであろう。
可能性としてはたとえば、従来のゲイ男性とHIV伝染との強い関連性が、特にゲイ男性への否定的な態度に大きく影響していたのかもしれない。そのような見方が少なくなったことで、ゲイ男性と異性愛男性との比較では有利に働いたが、レズビアンと異性愛女性との比較では影響がないのかもしれない。
第3に、家族生活の性質の変化が、LGBTQの人々にとって、職場における機会の変化と密接に関連している可能性がある。
過去の研究では、レズビアンはゲイ男性よりも、同性愛関係を結び、結婚に至る割合が高いことが示されている。だが、2015年の全米における同性結婚の合法化により、家族としての機会と責任に根本的な変化がもたらされた結果、ゲイ男性の家庭には、レズビアンの家庭とは非常に異なる影響が及んでいると思われる。そして、この家庭における役割の性質の変化(ノーベル賞を受賞した経済学者ゲーリー・ベッカーにより理論化されている)こそが、我々が報告したパターンのいくつかを生んでいる可能性がある。
結婚するゲイ男性カップルは、その1人が仕事を辞めて家事の役割に専念するかもしれない。それによって、もう一方のパートナーは仕事の生産性が高まり、結果としてゲイ男性の所得が異性愛男性との比較で増えていることが考えられる。今後、所得がより低いほうのパートナーが、一貫して労働市場からの撤退を選択していくとしよう。そうなれば、(我々の研究で観察されているように)就労中で相対的に高所得のゲイ男性が増えゆくことで、生産性への効果はさらに高まるはずだ。
そして、役割認識の影響は女性の同性カップルのほうが小さいとしたら(おそらくは、女性カップルのほうが正式な役割認識なしに家族として機能しやすいため)、これこそが、我々の研究で男性が過去の研究結果よりも違いが大きく、女性については大差なかった理由かもしれない。
全体として、我々の直近の研究は、答えよりも多くの問いを生じさせるだろう。だが、ゲイ男性の所得の相対的マイナスが解消されただけでなく、実はプラスに転じているという報告は、研究者に対し、性的少数派の男性と女性では職場体験に違いがあることを理解するよう求めるものだ。そして、米国のLGBTQにとって仕事と家庭という2つの領域は密接に関連している、ということを浮き彫りにするものである。
HBR.ORG原文:Gay Men Used to Earn Less than Straight Men; Now They Earn More, December 04, 2017.
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バンダービルト大学の経済学教授。同校のバンダービルトLGBT政策研究所所長。米国経済学会のLGBTQ経済学特別ワーキンググループの共同創設者でもある。米国、カナダ、オーストラリア、英国における性的少数者の経済状態の差異について、幅広く論考を発表。現在は、米国と欧州における同性結婚合法化の影響を調べる複数のプロジェクトに取り組んでいる。