●最初にひらめいたアイデアに惚れ込まない

 私の近著Entrepreneurial You(未訳)でも紹介した、ライフサイエンス企業のエグゼクティブのボジ・ダーは、あるときすばらしいアイデアを思いつき、いい副業になると考えた。ユーザーが自分で撮った写真と音楽を組み合わせて、気分転換できるアプリである。

 だが、結局はうまくいかなかった。失敗の原因について、ダーは次のように分析している。「(顧客が解決したいと思っている)問題は本当にあるのか、どのような顧客がいるのか、解決方法を探している人が存在するのか。こうしたことを一切確認せずにアプリ開発を始めてしまったことが敗因でした。自分のアイデアにすっかり夢中になってお金と時間をつぎ込みましたが、うまくいかなかったのです」。

 よいアイデアは、思いつくだけでは足りない。人々がそれを本当に求めているのかを確認しよう。資金をつぎ込むのは、それからだ。

 ●自分だけが提供できるものは何かを把握する

 最初の副業が失敗したので、ダーはなかなか次の挑戦をしてみようという気にならなかった。しかし、顧客のニーズを空想するのではなく、人々がダーに何を頼みにくることが多いのか、その声に耳を傾ければ大きな成果をあげられるかもしれないと思いついた。

 ダーの正規の仕事はきわめて順調で、昇進のペースは早かった。それを知る友人や同僚から、「コーヒーを飲みながら話を聞かせてくれとか、メンタリング・セッションをしてくれと頼まれることがひっきりなしにあった」という。

 ダーは自分の物の見方を高く評価してもらえていることに気づき、お金を払ってでも自分の話を聞きたい人がいるのではないかと考えた。事実、その通りだった。昇進を勝ち取ることをテーマとしたオンライン・コースは、初年度だけで10万6000ドルもの収入を(正規の給料とは別に)稼ぎ出したのである。

 ●あわてて仕事を辞めない

 新しくベンチャーを起業するのに夢中になるあまり、すべての時間と労力をそれにつぎ込みたくて、すぐさま正規の仕事を辞めてしまう人がいる。ダーは、それには賛成しない。少なくとも1年間は、いまの正規の仕事を続けることを勧める。

「会社にいる間に、(自分のビジネスモデルに関する)仮説をテストしていくのです」と、ダーは言う。「何が問題なのか。人々は解決方法を探しているのか。顧客になるのはどんな人か。私なら、こうした疑問に対する答えを得てから仕事を辞めるでしょう。(アイデアが花開くかどうかの)最終的な試金石は、自分が提供するものに対して人が財布のひもをゆるめてお金を払ってくれるかどうかです」

 ●スキル構築に投資する

 会社に勤めている人は、優れた才能に恵まれていたとしても、起業に取り組む準備が完璧ではない場合が少なくない。そのためダーは、正規の仕事を続けながら、同時に一連の起業スキルを身に付けることを勧める。

 私自身の戦略も、同じだった。私は2005年に自分のビジネスを起こすと決めたが、その後も1年間、それまでの仕事を続けた。その間に、財務管理や企画、ビジネス戦略など、ビジネスに必要だとわかっていた職能を磨くクラスに通ったのである(費用は会社が持ってくれた)。

 起業を決めた後、会社に勤めつつ「基礎スキル」を身に付けることをダーは勧める。営業やプレゼンテーション、説得術、コピーライティングなど、学ぶべきことはいろいろある。「講座を受講することも、同じような目標を持つ人のいるマスターマインド・グループに参加することも、ビジネス・コーチを頼むことも、すべて役に立ちます」と、ダーは言う。

 ●1度に1つのチャンネルに集中する

 最後に、いよいよ起業する準備が整うと、あれもこれもできると目がくらんでしまうことがよくある。ダーが勧めるのは、1度に1つのチャンネルだけをマスターして、熟練することである。そうすれば、そこから積み上げていくことができる。

 ダーの場合、1つのコースだけ(昇進のペースを早めるコース)、1つのチャンネルだけ(オンライン)、そのコースを受け付ける仕組みを1つだけ(アフィリエート・パートナーシップ)から始めた。ダーが集中したのは、「まずはしっかりとした基盤づくりをして、次に別のチャンネルや製品に着手する方法」だった。

 フェイスブックの広告や検索エンジン・マーケティングも魅力的かもしれないが、最初の段階では手を広げすぎないことだ。まず1つの分野で優れた能力を身に付け、そのあとで広げていくほうがよいだろう。

 フルタイムでもパートタイムでも、起業のチャンスを生かそうと動き出すプロフェッショナルが増えている。そのためには、ベンチャー・キャピタルもシリコンバレー的な「世界を変える」アイデアも必要ない。最良の出発点は、現在、友人や同僚から何を求められることが多いかを考え、そして実験し、何度も挑戦することである。どんな起業家も、最初から大成功するアイデアを持っていることなど、ほとんどないのだから。


HBR.org原文 How to Figure Out What Your Side Hustle Should Be, January 05, 2018.

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