●いま、ここにいる

 CEOの例に漏れず、マッキンゼー・アンド・カンパニーのグローバル・マネージング・ディレクターであるドミニク・バートンの毎日のスケジュールは、会議の連続だ。これらの会議はどれも重要で、どれも複雑な情報を擁し、ほとんどが広範囲に及ぶ決定を必要としている。

 このような条件下で、どの会議でも、すべての瞬間にマインドフルな状態でいることは難題である。だが、バートンは経験から、マインドフルネスは選択肢の1つではないと知っている。それは必須なのだ。

 彼はこう語った。「私がその日、誰かと一緒に過ごしているときは、集中するよう最善を尽くし、マインドフルな状態でその人と過ごします。それは1つには、人と一緒にいることでエネルギーをもらうからです。でも、もう1つの理由は、集中していなければ、つまり上の空であれば、他の人たちをがっかりさせるからです。彼らはやる気を失います。心ここにあらずの状態ならば、会議に出ないほうがいいくらいです。実行が難しい時もありますが、常に重要なことです」

 あなたの目の前にいる人は、ついさっきまであなたが何をしていたか知らないし、知る必要もない。会う人1人ひとりと過ごす限られた時間を有効に使うために、マインドフルな状態でいることは、あなたの責任なのだ。

 マインドフルな状態でいるためには、自制心とスキルが必要であると、バートンは信じている。付きまとう難題に動じたり、心の中のつぶやきに気が散ったりすることなく、課題に専念するには、自制心が必要だ。また、集中しマインドフルな状態でい続ける精神的な能力を持つには、スキルが必要である。

 バートンは、一日を通じてマインドフルな状態でいられると、深い満足を感じるという。「いまここにいる」ことは、1人ひとりと過ごす時間から最大限のものを引き出すうえで、欠かせない。

 ●「いま、ここにいる」ことを予定に組み込む

 キャンベル・スープ・カンパニーの元CEOダグラス・コナントは、現役時代に社内のあらゆるレベルの人と物理的・精神的につながる儀式を編み出した。彼はそれを「タッチポイント」と呼んでいる。

 コナントは毎朝、相当の時間を割いて、工場内を歩き回り、従業員に挨拶し、彼らのことを知ろうと努めた。従業員の名前のみならず、その家族の名前も覚えようとした。彼らの生活に心から関心を抱いていたのだ。また、傑出した努力に感謝の意を表するため、手書きの手紙もしたためた。そして、困難に直面している従業員には、個人的な励ましのメッセージも寄せた。彼は在任期間中に、このような手紙を3万通以上も送っている。

 コナントにとって、これらの行為は、生産性を高めるための単なる戦略ではなかった。スタッフを支えるための、心からの努力であったのだ。

 ●いま、ここにいて、アクションは起こさない

 シスコのシニア・バイス・プレジデント、ガブリエル・トンプソンの元には、難題を抱えた従業員がやって来る。時に簡単な解決策を提示する必要もあるが、たいていは話を聞けばいい。「多くの場合、必要なのはアクションではなく、聞く耳です。持ち込まれるたいていの問題に、解決策は必要ありません。リーダーが時間をつくって、そこにいることが必要なのです」と彼女は言う。リーダーとしていまそこにいて、オープンな気持ちで耳を傾けることが、もっとも強力なソリューションとなる。

 リーダーとしてのあなたの役割は、単に、部下がフラストレーションを吐き出したり、問題を整理したりするための安心できる空間をつくり出すことだ。マインドフルな状態で存在することで、あなたは入れ物となって、部下が問題を整理する空間を与える。

 あなたが状況の解決や修正、操作、コントロールに踏み込む必要はない。あなたの存在そのものが、問題の解決に役立つのだ。このように「いる」ことで、問題を解決するのみならず、より深いつながりと関わりを築くことができる。
 
 ●「いま、ここにいること」を体で表現する

 レゴ・グループの最高人材活用責任者、ローレン・シャスターは、非常に重要な会議やプレゼンテーションがある前には、5分間かけて、自分の体に「着地する」と言う。体内の細胞1つひとつが十分に活性化されるのを、ありありと思い浮かべるのだ。

「着地していないと、つまり自分の体や周囲の環境につながっていないと、方向や目標に対する強い感覚を持てません。フワフワと浮いているだけです。すると、ちょっとしたことで気が散ってしまいます。この着地テクニックは、雑念を払い、エネルギーを補給し、直感を強化し、感情を落ち着かせるのに役立っています」

 この5分間トレーニングを終えると、歩き方も話し方も変わる。真剣さが増し、重みと力強さが増す。その結果、精神的にも肉体的にもさらに充実して、周囲の人々との時間を過ごすことができる。その部屋に、岩のように着地させてくれるのだ。

 私たちが「いまここにいること」を体で表現すると、姿勢が変わる。猫背で腕組みし、みずからを文字通り閉じ込めるのではなく、もっと均衡がとれ、背筋を伸ばし、オープンで開放的な姿勢をとるようになる。腕組みせずに、姿勢正しく真直ぐに座るようになる。

 このような姿勢の変化は、私たちの考え方、行動の仕方、会話の仕方に影響を及ぼす。大胆な姿勢をとれば、自信のような資質を引き出せる。同様に、背筋を伸ばし、威厳に満ちた姿勢をとることで、気づきや集中力、包容力、思いやりといった資質を引き出すことができる。

 姿勢を正し、心を開くと、私たちの脳の化学にプラスの影響を与える。それは、思考のプロセスがより高度に機能するための能力を培う。そして、高度な気づきがもたらす英知、より開かれた心がもたらす思いやり、背筋の伸びがもたらす自信を手に入れることができるのだ。


HBR.ORG原文 If You Aspire to Be a Great Leader, Be Present, December 13, 2018.

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ラスムス・フーガード(Rasmus Hougaard)
グローバルなリーダーシップと組織の発展を支援する企業、ポテンシャル・プロジェクトの創設者兼マネージングディレクター。クライアントには、マイクロソフト、アクセンチュア、シスコほか、数百の組織がある。2018年3月、HBR Pressより2作目の著書、The Mind of the Leaderを出版予定。

ジャクリーン・カーター(Jacqueline Carter)
ポテンシャル・プロジェクトのパートナー兼北米ディレクター。ラスムス・フーガードとの共著に、One Second AheadThe Mind of the Leader(以上、未訳)がある。