●不可欠な専門家

 不可欠な専門家は、きわめて重大な知識を所持しているが、他のスタッフの管理をすることは望まない。

 この役割は、ハイテク、エンジニアリング、ライフサイエンス系の企業に多い。一部の人にしかわからない難解な分野における専門知識が、市場での成功を左右しうる業種だ。最近ではその役割は、クリエイティブな領域(たとえば、小売業の製品設計など)や通信といった、他の多くの業界でも重要になりつつある。

「不可欠な専門家は一般的に、他のスタッフを管理することは望まない」という点に留意が必要だ。彼らは自分自身だけを管理したいのである。このため、彼らを社に留める方法は、徐々に大きな仕事を担って企業で昇進したいと考えている従業員の維持方法とは、大きく異なる。

 では、どのようにして雇用を維持したらいいのだろうか。

 この種の人々に対しては、能力に見合う報酬が必須である(社内の幹部よりも高い報酬を得る価値を持つ専門家もいるだろう)。結局のところ、みずからの専門性を武器にして、どこででも働けるのだから。加えて、職場環境も大きな関心事だ。彼らは、意味があると思える仕事で、なおかつみずからの価値観に沿った仕事をしたいと思っている。

 例として、グーグルによる人工知能(AI)への投資を見てみよう。

 同社は、2014年に6億5000万ドルを支払って、AIのスタートアップであるディープマインド・テクノロジーズを買収した。そして、ディープマインドのAI科学者とエンジニア50人を社に留めるために、全力を注いだ。

 たとえばグーグルは、ディープマインドのハイテクを軍事や諜報活動の目的で利用しないと約束させられた。また、ディープマインドの科学者が、自分の研究を科学誌に発表し続けるのを認める必要があった。でなければ、グーグルはその知識を専有財産とみなし、機密としただろう。

 不可欠な専門家にとっては、能力開発(とりわけ、知識を得て、それを意味あるプロジェクトに適用すること)も非常に重要だ。彼らは一生を通じての学習者であり、その分野の先導者として見られたいと望んでいることも多い。そのため、思想的リーダーとして認知されるよう支援すること(たとえば、権威ある刊行物に著作を掲載する、注目を浴びる会議で講演する、など)は、彼らを留めるうえで非常に効果的であると思われる。