●顧客体験のクリエイター
こうした従業員は、来客が顧客となるか、顧客がリピーターになるかを左右する。それは、顧客が大きなサポートを必要としている分野(たとえば生命保険や産業機械など)の販売員かもしれない。あるいは、販売後に顧客に対応するスタッフかもしれない。フィデリティやパトナムのような資産運用会社で、大口の投資家を支援する顧客担当者を考えてみていただきたい。
これらの役割を担うスタッフを留めるうえで、最も重要な2つの原動力は、報酬と組織の評判だ。
能力に見合う報酬は最低限の必須条件である。彼らはたいてい、他のどこででも、もっと稼ぐことができるのだから。
組織の評判も重要である。なぜなら、みずからが販売したり提供したりする製品やサービスについて、好感を持つ必要があるからだ。
複数のスキーリゾートを経営する19億ドル企業であるベイル・リゾーツも、会社のよい評判によって、どれだけ従業員の雇用を維持できるかをいまでは理解している。3万人を超える従業員の約80%は季節雇用で、そのうちの多くが、リフトの運転者、スキーインストラクター、ロッジやレストランの従業員といった顧客体験のクリエイターだ。
2008年から2016年まで同社の最高人事責任者を務めたマーク・ガスタは、彼らこそが「組織の成功に欠くことのできない存在」であり、「長く勤めてもらうことが重要」と言っている。季節労働者は、毎年戻ってきてくれるのが理想的だ。
2009年の景気後退後、ベイル・リゾーツが再び繁栄するには、カギとなる人材の確保が必須であった。そして、その実現に力を貸す動きの1つが、企業の価値観を明らかにすることであった。
顧客への素晴らしいアウトドア体験の創出に努める同社において、中核をなす価値観が環境の保護となったのは、ごく自然なことだ。それは、最前線で働く従業員にとっても大きな意味を持つ事柄だ。
「給与をいくら払うかは問題ではありません」と、ガスタは述べている(もっとも、ベイル・リゾーツの給与は他社に負けないとのことだが)。「スタッフの個人的な価値観と合致していなければ、彼らは最終的には去ります。従業員は、よいことをする会社で働いていると知りたいのです。そして、自分がどれだけ貢献できるかを知りたいのです」
同社は、社内外の広報で持続可能性をテーマに据えた。さらに、2030年までに二酸化炭素排出を止め、埋め立てゴミをゼロに減らし、環境への有害な影響をなくすという大胆なイニシアチブを2017年に発表した。
労働環境についていえば、ベイル・リゾーツは、従業員にみずからの情熱を追求するための休みを与えている。たとえば、スキー休憩やスキー休暇もその1つだ。実際、「楽しむこと」が、働き手の6つの中核となる価値のうちの1つとなっている。