俗説(1)トップ・パフォーマンスとは、いかなるときも最高のパフォーマンスをすることだ
●実態
トップ・パフォーマーは経験上、自分のパフォーマンスが変動しやすいことをわきまえている。著名なギタリストのグレッグ・オールマンは現役時代、本番前には必ず緊張したと述懐している。彼の説明によると、そのときの気持ちは、「自分には十分に実力があるか」ではなく、むしろ「今夜は十分に実力を出せるか」だった。最高のパフォーマンスを発揮できるか否かの不安が、常につきまとっていたのだ。
●アドバイス
変動を予期しよう。まっすぐで揺るぎない進歩などというものは絶対に存在しない。浮き沈みがあるものなのだ。進んできた道筋が概して上向きであれば、すべてよしとしよう。そのことを正しく認識できれば、忍耐力が増し、折れにくくなるだろう。
俗説(2)他人に照らして自己評価すれば、パフォーマンスが向上する
●実態
自分磨きには、最高のパフォーマンスをもたらした行動と状況を、何度も繰り返して根付かせる必要がある。人真似をすることでパフォーマンスが向上するわけではない。だが研究結果によれば、人は常に自分自身を他人と比較して、ネガティブな結果を招いている。
1つには、自分より有能だったり、熟練していたりする人と比べて自己評価しているケースがある。比較した対象のレベルに自分が到達していない場合、この比較は逆効果になりかねない。逆に、自分よりうまくいっていない人と比べて、自己評価をするケースもある。無意識のうちに自尊心を保とうとする努力の表れだが、この「下向きの評価」も、自己を高めるうえでは明らかにマイナスだ。
●アドバイス
より適切なアプローチは、間違いを見直し、経験をどのように活かせば向上につながるかを考え抜くことで、パフォーマンス向上への真の機会を追求することだ。昨日よりも上達することに集中し、他の誰かのではなく、自分自身の可能性と希望をかなえることに注力しよう。そうすれば、自分がどんな方向に進みたいのか、そしてより重要なことに、なぜその方向に進みたいのかが、より鋭く察知できるようになる。
俗説(3)成功する人は、1つの必勝法を「唯一の方法で計画的に実践」している
●実態
プロ野球の米大リーグのピッチャー、R. A. ディッキーが2012年にサイ・ヤング賞を獲得した理由の1つは、ナックルボールを使いこなしたからだ。これは習得するのは難しいが、上手に投げればほとんど打たれないピッチング法だ。
ただしディッキーは、これまで習得した数々の技についても、練習を重ねて完成させている。ベストコンディションで試合に臨んだときには、ナックルボールは数多くの戦術の1つにすぎないと考えていた。特別な武器だけに頼るのではなく、さまざまなピッチング法やスピード、スピンを駆使して、相手バッターに投げ勝ったのだ。
●アドバイス
よりよい自分を手に入れるたった1つの方法など、誰にとっても存在しない。ただ1つの壮大な戦略とは、途中で持ち上がる緊急事態を考慮に入れていないので、ほとんどの場合、うまくいかない。適応性は計画と同じくらい重要だ。 たとえ試合が始まってからでも、よく考えられた代替案なら、ためらわずに切り替えよう。みずからの意志で選んだ方向なので、より責任感も高まるはずだ。
俗説(4)パフォーマンス向上の源泉は、最も困難な目標から目をそらさないこと
●実態
目標を設定して追求することが、実際にはパフォーマンス向上の妨げになりかねないことを示す証拠がある。ある研究では、シカゴ大学の教授チームが実験参加者に、ジムに通ったりデンタルフロスを使ったりというごく簡単な活動で、自分自身の向上を目指してもらった。その結果、目標を設定することで、何らかの実行計画を立てるのに費やす時間は増えるものの、それを実行する時間は減少することが明らかになった。
●アドバイス
目標を立てることと、実行に移すことを切り分けて考えよう。最初に「ゴルフのスウィングを上達したい」とか、「今年の販売成績を20%アップしたい」といった最終目標を考える。そして、いったん実行の段階に入ったら、活動そのもののやりがいや楽しさに注目し、結果にはあまり重きを置かないようにする。 たとえば、困難な目標について考えずに(そして自分にプレッシャーをかけずに)、自分がゴルフをすることや顧客と話すことがどんなに好きかを、自分に言い聞かせよう。
結局、パフォーマンス向上の源泉は、自分自身にしかない課題と能力をわきまえることにある。セルフヘルプ・カルチャーの公式に従うことではないのだ。
よりよい自分を手に入れるには、山あり谷ありであると自覚すること、自分と比べるのは自分自身とすること、進む方向に沿って適応すること、そして、大きな目標を掲げつつも小さなステップで実行し続けることだ。
これは単に、自己啓発のためのアドバイスにとどまらない。他者を導く方法でもある。何より、人を導くためにも、自分自身を導けることが先決である。
HBR.ORG原文:4 Self-Improvement Myths That May Be Holding You Back, February 02, 2018.
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D. クリストファー・ケイズ(D. Christopher Kayes)
ジョージ・ワシントン大学教授で経営学部長。著書にOrganizational Resilience、 Destructive Goal Pursuit(いずれも未訳)などがある。

ジェームズ R. ベイリー(James R. Bailey)
ジョージ・ワシントン大学教授。リーダーシップ論を担当。ワシントン・ポスト紙やフォーチュン誌、ザ・ヒル誌に頻繁に寄稿している。また、サイコロジー・トゥデイ誌のコラム「アット・ザ・ヘルム」も担当している。