1.小さいことを手掛けて、大きなインパクトを上げる
CEOへの道が真直ぐなことは稀である。前に進むために、時として後退したり横道に逸れたりしなくてはならない。
スプリンターの60%以上が、キャリアのいずれかの時点で、当時の職よりも小さな役割を担っている。会社で何かを新規に始める(新たな製品や部署の立ち上げなど)、より大きな責務を担うために小さな会社に移る、みずから事業を始める、などだ。いずれの場合も、何かを一から築く機会を活かし、並外れたインパクトを生んでいるのだ。
ジェイムズは20代後半に、数十億ドル規模のマーケティング・コミュニケーション会社で、戦略・事業開発担当として雇われていた。彼はキャリアの早い段階で、ある新規事業を立ち上げる機会を与えられる。それは降格か、よくても横道への異動のように感じられた。新たな組織図は真っ白で、未来はきわめて不確定なのだから。
「私が足を踏み入れたときには収益ゼロだった事業を、私たちは2.5億ドル規模にまで成長させたのです」と、彼は言う。新規事業を一から築くことで、損益計算書の管理、予算管理、戦略ビジョンの設定といった、重要なマネジメント・スキルを獲得した。どれもCEOとなるうえで必須の要件だ(我々が調査した全CEOの90%以上が、一般的なマネジメント経験を有している)。13年後、彼は15億ドル規模の教育・訓練会社のCEOとなっていた。
2.思い切ったジャンプをする
スプリンターの3分の1以上が、多くはキャリアの最初の10年のうちに、「思い切ったジャンプ」をすることでトップへと飛躍している。このような幹部は、たとえ与えられた役割がこれまでの経験をはるかに超えており、立ちはだかる課題への準備が十分でないと感じる場合でも、思い切ってその機会を受け入れている。
ジェリーの例を見てみよう。彼は24歳のとき、2億ドル規模の企業に上級会計士として就職した。採用から8ヵ月後、ジェリーはCFO職を提示された。これは、採用者である経理担当役員を飛び越えての昇進を意味する。
彼は若く、まだ仕事の要領を学んでいる段階ではあったが、この挑戦を快く受け入れた。「その役職に就くには自分はあまりに若く、準備ができる前に責任を与えられました」と、ジェリーは言う。CFOとなった彼は、さまざまな職能に対する洞察力を得て、新しく不確実な環境で力を発揮する能力があることを証明した。その9年後、COOを経て、自身初のCEO職に就いた。
このような想定外のチャンスが転がり込んでくることなど、期待していないという人は多いだろう。しかしながら、これらのスプリンターから我々が聞き取りをして学んだことは、「自分の幸運は自分で開く」という態度である。
そのためには、事業の多くの側面に関わる、部門横断的なプロジェクトを追い求めてもよい。合併・統合の仕事に関わるのもよいだろう。上司にさらなる責務を志願したり、困難で複雑な問題に取り組んだりしてみるのもよい。そして何より、大きなチャンスに対して「イエス」と答える癖をつけることだ。その用意ができていようとなかろうと。
3.大混乱を引き継ぐ
これは意外かつ、やや気が乗らないかもしれないが、CEOの資質を証明する方法の1つは、大きな混乱を引き継ぐことである。
それは不採算の事業部門かもしれないし、失敗した商品や、破産の処理かもしれない。何であれ迅速な解決を必要とする、事業における大きな問題だ。我々が調査したスプリンターの30%以上が、大混乱のなかでチームを率いた経験があった。
厄介な状況では、強いリーダーシップが切に必要とされる。頭角を現しつつあるリーダーにとって、危機はみずからの能力を示すチャンスだ。状況を冷静に見定める、プレッシャーの下で意思決定を下す、リスクを承知で賭けに出る、人々を自分の周りに結集させる、逆境を耐え忍ぶ、といった能力である。別の言葉で言えば、危機はCEO職への恰好の準備となるのだ。
運送会社のCEOであるジャッキーは、大きな混乱が向こうから来るのを待つのではなく、あえて探し求めた。「私は、解決すべき厄介ごとに取り組むのが好きでした。それがITだろうと、コストや税金の問題だろうと関係なく、です」と、彼女は言う。「数々の最も厄介な課題が割り当てられました。それらを解き明かし、答えを見出すことができたのです」
ジャッキーは、他の誰もあえて取り組もうとしない仕事に、みずからのキャリアを賭けながらステップアップしていくことで、会社のために成果を上げられることを証明した。彼女が自身初のCEO職に就いたのは、初就職の初日から20年後のことであった。
CEOの椅子につながる唯一の道などない。だが、上述のようなキャリアの飛躍台は、トップを目指す誰もが模倣できる。これらは、トップに行くのが困難だと感じる人ほど特に効力がある。たとえばコーン・フェリーによれば、女性はCEO職に就くまでに男性よりも30%長くかかるという。
これらの飛躍台を通じてキャリアを加速させるには、一流校のMBAも、持って生まれた特定の資質も必要としない。だが、横道に逸れ、型破りで、リスクすらあるキャリア進路を行く意志が問われる。気弱な人には向かないが、トップの地位を熱望する人は、これらに慣れたほうがよい。
HBR.ORG原文:The Fastest Path to the CEO Job, According to a 10-Year Study January 31, 2018
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エレナ・リトキナ・ボテロ(Elena Lytkina Botelho)
リーダーシップ・コンサルティング会社ghSmartの共同経営者。CEOゲノム・プロジェクトの創設者。共著にThe CEO Next Door(Crown Publishing、2018年)がある。

キム・ローゼンケター・パウエル(Kim Rosenkoetter Powell)
ghSmartのプリンシパルであり、CEOゲノム・プロジェクトの共同代表。共著にThe CEO Next Door(未訳)がある。
ニコール・ウォン(Nicole Wong)
ghSMARTのプリンシパル。CEOゲノム・プロジェクトの中心メンバー。