AI(人工知能)や機械学習、ディープラーニングなど、ビッグデータを活用するための技術が飛躍的に進化する中、AIと人間の関係性が問われるようになってきた。私たちはどこまでAIの自動化、最適解に頼るべきなのだろうか。また、ビジネス分野でのAI活用はどんな可能性を秘めているのか。ビッグデータ分析や感性情報処理などの技術を活用したAIシステムの研究開発を手がける国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授、中西崇文氏に聞いた。

字コンテの状態で
CMの好感度を予測

――「AI・機械学習と人間の創造性」をテーマに研究をされているそうですね。今はどのようなことをされていますか。

中西 崇文(なかにしたかふみ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
主任研究員/准教授

2003年、筑波大学大学院システム情報工学研究科で修士(工学)学位を取得。2006年、同研究科で博士(工学)の学位を取得。同年4月より、独立行政法人情報通信研究機構の研究員。2013年10月、研究推進員(主任)。2014年4月より現職。デジタルハリウッド大学大学院デジタルコンテンツ研究科客員教授。経済産業省「流通・物流分野における情報の利活用に関する研究会」委員等歴任。研究分野はメディア情報学・データベース、感性情報学・ソフトコンピューティング。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)、『シンギュラリティは怖くない』(草思社)などがある。

 AIによるCM好感度予測システム「CREATIVE BRAIN」を株式会社東京企画(CM総合研究所)からCM好感度データの提供受け、株式会社コラージュ・ゼロと一緒に開発しています。このシステムに「字コンテ」(文字で書いたCMの場面設定や内容)を入力すると、そのCMが「刺さる」年齢層や好感要因などを推定できます。

 例えば、「桜の花びらが舞う丘、幸せそうに家族を見つめる、帰り道は…」と入力すると、「心が和んで誠意が伝わる。主婦層の支持が得られそうだ」といったように、誰にどのような印象を与えられるかがわかります。

 パイロット版を作らなくても絵コンテの状態で好感度を予測できるのがポイントです。その評価によってCMの効果を探り、アイデアを練り直せばいい。つまり、「AI+人間の創造性」で、よりクリエイティブなCMが効率的に制作できるようになるわけです。

 逆演算も可能です。例えば、AIが「主婦が好印象を持つ単語」を抽出し、その単語を使ってCM案をつくる。さらに、それをCM好感度予測システムにかけ、その評価を基に修正を加えていくといったこともできます。

――音楽の曲作りでも自動化が進んでいるそうですね。

 私は「感性情報処理」という分野の研究をしています。これは、「印象による音楽検索」など、「感性」に基づいた検索を行なうための研究です。音楽を曲名や作曲者といったキーワードではなく、「明るい曲調」「暗い曲調」など、もっと曖昧な印象で検索できるようにしました。そこで今は、その逆のやり方、つまり音楽の印象から実際の曲を作ることができるのではないかと考え、曲作りのAIを開発しています。

 このAIは「明るい」という言葉を入力するだけで、数秒間に何千曲も作ることができる。人間なら、どんなに才能のある人でも10曲くらい作ったら行き詰まってしまうのではないでしょうか。しかし、AIはネタ切れしません。AIにも著作権がつけられるようになると、著作物が大量に作られるようになるでしょう。人間は、それを咀嚼して選んでいくことがすごく大事になってきます。

 私は自分自身でも作曲も行ないますが、DTM(デスクトップミュージック)という世界があるように、パソコンを利用した曲作りはもう当たり前です。実際、私も使っていますが、「Logic」というDTMのソフトはドラムのリズムパターンを自動生成してくれます。そういう延長線上で、AIが作った曲を人間が微調整してよりよい曲に仕上げていくようになるでしょう。