ではダイバーシティは、平均的な調査対象企業に、どのような潜在的影響を及ぼすのだろうか。
今回の調査データをもとに計算したところ、イノベーションの収益はマネジメント・チームの多様性の強化によって1%上昇する。この1%の上昇は、チームの1.5%を異なる地域の出身者にすること、あるいは2%を異なる業界の出身者にすること、2.5%を異なる性別にすること、または3%を異なるキャリアパスを持つマネジャーにすることで可能となる。各要素の比率がさらに高くなれば、収益の上昇率もいっそう大きくなる可能性がある。
さらに、業績向上におけるグローバル化とテクノロジーの重要性を考慮し、これらの2要素がダイバーシティと業績の関係に与える影響についても調査した。その結果、ダイバーシティの影響は、デジタルイノベーションを重視する企業で(営業費用におけるデジタル投資の割合で評価)最も大きくなることがわかった。
イノベーションの大いなる可能性と、デジタル・テクノロジーの成熟度の低さを考えると、これはおそらく驚くに値しないだろう。多くの企業がデジタル・テクノロジーの向上に躍起になっている現在、ダイバーシティはイノベーションへの取り組みを強化する手段として正当に評価されておらず、有効活用もされていない。
また、複数の国で重要な事業を展開している企業では、ダイバーシティとイノベーションの結びつきがいっそう強まることもわかった。この結果も驚くに値しないだろう。グローバル企業は、機会を積極的に生かす意思があれば、ダイバーシティの影響を活用しやすい立場にあるからだ。
イノベーションとダイバーシティは、調査した全地域で緊密な関係があることがわかったが、その状況は、個々のケースによって様変わりする。ダイバーシティの各要素の出発点が違うだけでなく、それを重視する度合いと、その影響の程度も異なるのだ。そのため、ダイバーシティによるイノベーションの成功パターンは、国によって千差万別である。
たとえばドイツでは、そもそも全体的な教育レベルが高いため、教育に関するダイバーシティはインドに比べると著しく低かった。また、米国やフランスのような先進国では、年齢や性別などダイバーシティの先天的要素が重んじられる傾向にある一方で、インド、中国、ブラジルなどの途上国では、出身産業や学歴など後天的要素が重視されていた。影響の面では、フランスと米国では出身国の多様性がイノベーションの大きな原動力だったのに対し、ブラジル、中国、インドでは出身産業の多様性に依拠するところが大きかった。このように、文化や状況が違っても、ダイバーシティにはさまざまな活用方法がある。
昨今、上級職への平等な登用や、異なるバックグラウンドを持つ社員への同一賃金といった「構造的ダイバーシティ」の向上がすみやかに進んでいないという、もっともな批判がなされてきた。今回の調査でダイバーシティとイノベーション、そして業績の強い結びつきが明らかになったことで、格差問題に対処するための経済的・技術的なモチベーションが高まるかもしれない。
ダイバーシティはときとして、文化を規範としたコンセプトだと批判されてきた。しかし、我々の調査により、ドイツとインドのような異なる国でも、ダイバーシティがイノベーションの成果を高めることが判明した。加えて、ダイバーシティは多種多様な形で業績を向上させることもわかった。
ダイバーシティを活用する秘訣は、コンセプトを複数のレベルで適用することのようだ。ダイバーシティのさまざまな側面に着目し、成功をもたらすための多様なルートを受け入れるのである。
もちろん、今回明らかになった相関は、人材の多様化によるイノベーションの促進を保証するわけではない。ダイバーシティの力を引き出すには、敵対的でない職場環境や開放的な企業文化、経歴の多様性によって生じる異なる意見を自由に戦わせる環境、といったダイバーシティ実現のための慣行が必要である。
HBR.ORG原文: How and Where Diversity Drives Financial Performance, January 30, 2018.
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ロシオ・ロレンツォ(Rocio Lorenzo)
ボストン コンサルティング グループ、ミュンヘン・オフィスのパートナー。コンタクト先はこちら。

マーティン・リーブス(Martin Reeves)
ボストン コンサルティング グループ、ニューヨーク・オフィスのシニア・パートナー兼常務取締役であり、同社ブルース・ヘンダーソン研究所のディレクター。『戦略にこそ「戦略」が必要だ』 の共著者。コンタクト先はこちら。ツイッター(@MartinKReeves)でも発信中。