私は求職者のタイプ別に、雇用主の姿勢を調べた。その方法として、まず雇用主に架空の履歴書2通を読んでもらい、それぞれの求職者の能力やコミットメントの程度、信用度、仕事の適性度について、印象に基づいて評価するよう依頼した。前述の追跡調査と同様に、実験の目的に合わせて履歴書を作成し、失業中の求職者と育児に専念している求職者で唯一違う点は、雇用に空白期間がある理由にした。

 この調査実験の結果、失業中の求職者も育児に専念している求職者も、継続雇用されている求職者よりも、能力が劣ると見なされることが判明した。おそらく就業していない期間に、スキルが次第にさびついたと思われるのだろう。

 育児に専念している求職者はさらに、失業中の求職者と比較して、信用度が低く、仕事の適性度も低く、しかも最大の難点として、仕事へのコミットメントも低いと雇用主は見なしていた。興味深いことに、前述の追跡調査では、連絡があった比率における性別による差異はごくわずかだったのに対し、今回の調査実験では、育児に専念する父親のほうが育児に専念する母親よりも、コミットメントの程度も信用度もさらに低いと受け取られることが判明した。 この理由として、父親には普通、家族を扶養するという期待がかかるにもかかわらず、育児を専業とする父親はこの期待に忠実に応えていないとして、回答者がネガティブな印象を受けたことが考えられる。

 こうした結果から、育児に専念する親が仕事よりも家族を優先するのではないかと、雇用主が心配しているように見受けられる。育児のために一度離職した求職者は、再び仕事を辞めようとしたり、仕事に復帰する過程で困難に直面したりするのではないかと、雇用主が不安に思っているようだ。

 これらの懸念がそもそも生まれるのは、「被雇用者は仕事に100%打ち込むべきであり、生活における他の何より仕事を優先すべきである」という広く浸透している期待に、育児に専念していた親がそむくからなのだろう。ちなみに社会学の専門用語では、この期待を「理想的な労働者規範」と称する。

 働く意欲がある親にとって、この理想的な労働者規範が問題になりうる。働く親が職場を去って育児に専念することを選ぶ一因は、融通の利かない職場や、長時間労働常時オンであることをよしとする労働文化なのだ。

 私の今回の調査で、育児に専念していた求職者を雇用主が評価する際に、この規範が発動することが明らかになっている。言い換えれば、この規範によって、次のような強化サイクルが生み出される。まず、この規範が原因で離職する親が現れる。次に、同じ規範が育児に専念していた親を再就職から遠ざけ続ける。

 被雇用者に課される規範と期待が評価し直されない限り、育児に専念するという選択をした親は、キャリアの前に立ちはだかる壁を越えられそうにない。


HBR.ORG原文:Stay-at-Home Moms Are Half as Likely to Get a Job Interview as Moms Who Got Laid Off, February 22, 2018.

■こちらの記事もおすすめします
予測不可能なスケジュールは女性のキャリアに大きな不利を及ぼす
子育て経験のある上司とない上司、どちらが育児の苦労に共感してくれるか?
日本の職場は、いまなお女性が働きにくい

 

ケイト・ワイスハー(Kate Weisshaar)
ノースカロライナ大学チャペルヒル校の社会学部助教授。ノースウェスタン大学から学士号を、スタンフォード大学から博士号をそれぞれ取得。