業界を知り尽くす

 高学歴によって容易に信頼を得ることはできなくても、業界や企業特有の詳細な知識を蓄えれば、信頼を勝ち取ることが可能である。

 学位を持たないCEOの89%は、CEOとなった業界の中で「成長」していた。また、学位を有するCEOと比べて、その業界で過ごした期間が40%も長かった。雇い主は、業界や会社の事情を知り抜いている人物を、より安心して雇う傾向がある。こうしたCEOは深い知識を持ち、緊密な人間関係を構築しているため、それが学歴の低さを補って余りある成功の土台となったのである。

 学位を持たないCEOは、1つの地位に留まる期間が平均で25%長く、大卒のCEOと比べて歴任する地位の数が13%少ない。また、CEOに着任するまで、15%ほど長い期間を要する場合が多い。

 ボブは1970年、ベトナム戦争のときに暗号解読者として働き始めた。除隊して最初に就職したのは、警備会社だった。それから2社で複数の部署を経験し、異なる4人のCEOとともに働いた結果、周囲の信頼を勝ち取り、学歴への懸念を払拭することができた。

 ボブの最大の業績は、銀行に数千ドルの預金しか残っていない警備会社を立て直し、売却したことだった。彼がこの会社を買収したとき、オーナーらは同社に投資の価値はないと見なしていた。そんな会社を5000万ドル近くで売却したのである。ボブは業界に精通していたため、同社を9年かけて改革する中で、複数の事業を整理統合し、企業を24社買収したほか、不良債権を88%減らしたうえに、収益を倍増させたのである。

 1つの会社、あるいは業界で十分な実績を積んでいない場合でも、大企業ではなく中小企業であればトップに就けるチャンスはより多い。筆者らの分析によると、中小企業の場合、受け入れる学歴や学位の幅がずっと広い。その理由の1つは、中小企業が利用できる人材プールが限定的であることだ。

 あるいは、自分で会社をたち上げるという手もある。学位を持たないCEOは大卒のCEOと比べ、起業する確率が2倍に達する。

 結果に物を言わせる

 大学の学位なしにトップに上り詰めるCEOは、抜群の成果を実現し、それに物を言わせる。

 筆者らがHBRの記事What Sets Successful CEOs Apartで紹介したように、信頼性は、成功するCEOならではの、4つの行動特性の1つである。そして信頼性は、CEOに抜擢される可能性を2倍に高める唯一の特徴でもある。

 筆者らが調査したCEOの1人、マーク(仮名)は、過小評価されることに慣れていて、人々の予想を超える働きをすることで成功を手に入れてきた。

 トラックの運転手として働き始めたとき、通常は1日にトラック1台分の荷物を運ぶところを、マークは3台分を運んでいた。それに目をつけたライバル会社があった。マークはこう語っている。「私の業績は前代未聞でした。だから、うちで働かないかと言ってくれたんです」

 セールスの仕事を始めたときも、やはりマークは抜群の成績をあげた。同僚たちは部署の売り上げを5~10%増やすことが求められたのに対し、上司はマークに対して、30%増やせ、そうすれば10%を超えた分は全額ボーナスに上乗せしよう、と言ったという。マークはひるまなかった。自分の部署の売上げを60%増やしたうえに、会社の営業地域を1都市から13の州にまで拡大したのだ。

 まるでレーザー光線を当てるように結果を出すことに集中したマークは、トラックの運転手からキャリアをスタートして、20年もしないうちに5000万ドル規模の企業のCEOに上り詰めた。

 マークの成功の秘訣は、とにかく結果を出し、それによって認められたことだ。筆者らの調査によると、学位を持たないCEOの半分以上(56%)が、セールスとマーケティング分野の出身者である。数字は学歴よりもアピール力が強く、測定可能な売上げの数字を拡大できる職種は、業績を認められやすいのである。

 興味深いことに、筆者らが分析したCEOプールの平均と比べ、学位を持たないCEOは、軍隊での経験を持つ割合が2倍近くに達する。大学の学位がない場合、軍隊での経験は重要なスキルを学ぶチャンスや、早い時期にリーダーシップを磨く経験をもたらしてくれるのである。

 優れた人材を引き寄せる

 筆者らが分析した学位を持たないCEOは、積極的に自分の周囲を有能な人材で固める傾向が強く、そんなチームの専門知識を活用していた。そうしたCEOは謙虚であり、ステータスや階層にこだわらず、オープンな姿勢で、あらゆるタイプの人々からアイデアを吸収していた。

 筆者らがブライアンに最初に会ったとき、彼は3億5000万ドル規模の人材派遣会社のCEOになったばかりであった。ブライアンが成功した秘訣は、自社のすべての階層において、高いパフォーマンスを上げている従業員を活用し、優れたアイデアを引き出すことだった。たとえばあるとき、ブライアンは新しい女性アシスタントを雇った。ほどなく、彼女が出したアイデアによって業界史上最大の契約が実現した。

 それ以前に、別の会社に勤めていたときから、ブライアンはあることを習慣にしてきた。業界で最も才能ある人は誰かと、顧客に尋ねるのである。あるとき顧客の1人が教えてくれた人物は、ブライアンよりずっと年上で収入も高かったが、ブライアンは彼を説得してチームに入ってもらうことに成功した。「いまでも、彼の支店は最も利益率が高い支店の1つです」

 このように、強力なチームをつくることに力を注ぐと、大きな成果を上げることができる。これに対し、興味深いことに、「独立心が強い」ことが自分の特徴だと考えているCEOは、他のCEOと比べてパフォーマンスが劣る可能性が2倍に達していた。

 トップに上り詰めようとすれば、誰でも厳しいハードルに直面する。筆者らが研究したCEOたちは、それに加えて大学を卒業していないという、さらなる障害を乗り越えた。

 学歴の水準にかかわらず、他のリーダーたちも、そのキャリアパスから学べることがあるだろう。自分のビジネスを熟知し、結果を出すことに集中し、他の人の力を引き出すことを学べば、誰でもよりよい成果を収められるようになるはずだ。


HBR.ORG原文: How CEOs Without College Degrees Got to the Top, February 26, 2018.

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キム・ローゼンケター・パウエル(Kim Rosenkoetter Powell)
ghSmartのプリンシパルであり、CEOゲノム・プロジェクトの共同代表。共著にThe CEO Next Door(未訳)がある。

 

エレナ・リトキナ・ボテロ(Elena Lytkina Botelho)
ghSmartの共同経営者。CEOゲノム・プロジェクトの創設者。共著にThe CEO Next Door(未訳)がある。

 

バムシ・テタリ(Vamsi Tetali)
ghSmartのリーダーシップコンサルタント。前職はマッキンゼー・アンド・カンパニー。