では、なぜウォルマートは――ほんの数年前には性差別で150万人もの女性従業員に訴えられたにもかかわらず――育児休暇のリーディング企業になったのだろうか。新制度は最近可決された法人税引き下げに起因すると、同社は述べている他社も減税に伴う福利厚生の拡充や臨時ボーナスの支給を行っている。

 だが、いくつかの理由により、これには疑いをはさむ余地がある。

 まず、現在の米国はほとんど完全雇用状態にあり、労働市場が逼迫している。優秀な人材を採用するためには、いっそうの努力が必要であることは企業も心得ている。次に、ここ数年の企業利益は記録的な高水準となっており、景気のよい企業が、これまで有給育児休暇を付与する余裕がなかったとは信じがたい。

 米国の新しい税制改革によって企業は金を節約でき、米政治メディアのポリティコの推定では、新税制によるウォルマートの節税額は年10~20億ドルに上る。

 一方、有給育児休暇の付与にかかるコストは最小限であることが、調査で明らかになっている。有給育児休暇を義務づけている数少ない州の1つ、カリフォルニア州での調査によると、雇用主の87%が有給休暇の付与はまったくコストがかからないと答えており、9%はむしろコスト削減につながったというのだ。

 さらに、ロビー団体「合衆国のために有給育児休暇を」(PL+US)の創設者で最高責任者のケイティ・ベセルによると、現状維持はリスクになるという認識が広がり始めているという。「育児休暇を与えない企業でいることは、ブランドにとってのリスクになりつつある。また、女性だけに休暇を与えて男性には与えない、あるいは社内で女性が活躍しにくいといった状況は、性差別につながるおそれがある」とベセルは述べる。

 これは単なる仮説ではない。CNNJPモルガン・チェースエスティ ローダーなどのいくつかの企業は、性別によって育児休暇が少ないのは違法だとして、男性から訴えられている。米国ワークライフ法律センターの推計によると、1998~2012年の間で、差別に関する全体的な訴訟数は減少しているものの、育児休暇の差別に関する訴訟は590%も急増している。

 有給育児休暇の付与に関して、ビジネス上の妥当性が十分にあるにもかかわらず、多くの企業はいまだに納得できる説明がなければ動かない。ウォルマートの決断に寄与したと思われる4つの要素を、ベセルは次のように概説する。