1.幅広い従業員の支持

 新たな制度に対する支持が社内で広がっている事実を示すことが重要だ、とベセルは説く。ウォルマートの場合、制度の改善を求めて数千人もの従業員が署名した請願書が、これに当たる。また、同社が新制度を発表する1ヵ月ほど前には、株主の1人が有給育児休暇の拡充を求める決議案を提出している。

 2.説得力のあるストーリー

 統計や数字は常に役立つが、「不十分な育児休暇制度の影響を被った、実際の従業員のストーリーを意思決定者に伝える必要がある」とベセルは主張する。「それが人材の採用や維持にまつわるものだと、とりわけ効果がある」

 たとえば、是が非でも採用したかった候補者に育休制度が理由で辞退された話や、優秀な人材が育児休暇での苦い経験を理由に退職した、といった話だ。「こういう物話こそが経営陣にとっての警鐘となり、労働市場での機会損失を明確に示すことができる」

 ベセルは、ある従業員の話を例に挙げた。彼女は出産後わずか1週間で、赤ちゃんがまだ新生児集中治療室に入っているにもかかわらず、ウォルマートの職場に戻らねばならなかった(米国労働省のデータによると、米国では女性の約4人に1人が出産後2週間以内に職場復帰している)。彼女は、休暇を取る経済的な余裕がなかったのだ。

 雇用主はこうした話を聞くと、「そんな雇用主にはなりたくない」と自分に言い聞かせるのだと、ベセルは述べる。

 3.説得力のある提案

 よりよい育児休暇制度を求める際には、現行制度が不十分だと指摘するだけで終わってはならない。具体的にどんな新制度を求めているのかを会社の意思決定者に伝えるべきだと、ベセルは主張する。

 有給休暇の長さは、包括的な育児支援制度の一要素にすぎないが、やはり、それが最大の論点である場合が多い。では、理想的な有給育児休暇の期間とはどのくらいだろうか。何人かの専門家は半年間~1年間としている。たいていの新生児はこの時期を超えると、一晩中眠るようになり、笑い、人の顔を覚え、育児者と意思疎通し、固形食を食べるようになるからだ。

 しかし、たいていの米国企業はそれほど寛大ではないため、制度改善を提唱する従業員は妥協点を見極めなければならない。

 競合企業の制度に関するデータを集めるのは困難である。数年前にPL+USが米国の大手企業を調査したところ、その多くが制度の公開を拒否した。職場レビューサイトのFairygodbossやGlassdoorなどは参考にはなるが、これらの情報はユーザーからの投稿に基づいているため、不完全なことが多い。また、米国の有給育児休暇の現状はきわめて悲惨なものなので、提唱者は「どの会社もやっているのだから、我が社もやるべきだ」と論証するのは難しいだろう。

 むしろ、変革を目指すならば、「我が社はこの問題で後れを取るよりも、先駆者になるべきだ」と主張するとよい。

 4.粘り強さ

 いかなる変革の取り組みも、1度の話し合いで成功することはない。ベセルの推定によれば、ウォルマートの従業員と活動家は、経営陣に制度変革を納得させるべく約1年もかけて集中的な努力を重ねたという。私が他の企業について聞いた話も、だいたい似通っている。

 たとえばニューヨークタイムズの女性社員らは、育児休暇制度の拡充を求めて陳情した際、他社の制度を調べて、ビジネス上の妥当性を立証する作業に数ヵ月を費やした。ニューヨークタイムズのオペレーション部門バイスプレジデントであるエリン・グラウは、フェアリーゴッドボスのインタビューで、こう述べている。「私たち5人がランチの席で提案書を書こうと決めてから、経営執行委員会の最終承認を得るまでの道のりは、順調だったと言えば嘘になるでしょう。でも、頑張った甲斐がありました」

 結局のところ、ベセルが言うように、有給育児休暇は「職種にかかわらず、誰もが必要とする制度」なのである。


HBR.ORG原文:Why Walmart Expanded Parental Leave — and How to Convince Your Company to Do the Same, March 01, 2018.

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サラ・グリーン・カーマイケル(Sarah Green Carmichael)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のエグゼクティブ・エディター。