行動

 企業文化を築くためによく行なわれるのは、企業理念(バリュー・ステートメント)の策定である。しかし真の課題は、リーダーがどのように振る舞うか、つまり、リーダーが価値観を体現できるかどうかだ。

 部下はリーダーの行動のすべてを見ている。リーダーが価値観に沿った行動をしていないなら、価値観を文章にまとめても意味はない。

 また、社員にも明確さは必要だが、種類はいささか異なる。私の部下出会ったどの社員も、どんな役得や特典よりも、何が期待されているかが明確であることを望んだ。組織の価値観に照らして、常に報われるのはどのような行動なのか。 どう行動すれば昇進できるのか。

 あなたの会社の企業理念に関する、それぞれに当てはまる行動やスキルを特定することに、時間をかけよう。

 たとえば、ある人が「チームワーク」という価値観を体現している場合、その人はどのような行動を取っているのか。あるいは、どのような行動を取らないのか。

 ある組織はチームワークを「周囲の人を助けることで効果的に協力すること」と定義するだろう。また別の組織は、「生産的な議論を奨励することで効果的に協力すること」と解釈するかもしれない。どちらもよいのだが、その会社では他社と違ってどのような行動が期待され、奨励されているのかが大事なのだ。

 社員に期待する行動を明確にすれば、リーダーの責任も明確になる。マネジャーは、成果より面談の印象を重んじていないか。リーダーがいつも会議に10分遅れてこないか。常に5分遅れで始まる会議に、誰も準備せずに参加することも珍しくなくなる。

 これらは、企業文化と企業理念を決定づける実際の行動である。この組織ではいつしか、会議が時間に遅れて始まるのが通例になる。面談が多く、リーダーは後手に回り、無関心になる。当然、社員も受け身になる。そして、なぜ社員が辞めていくのかと首をかしげるようになる。

 期待される行動が明確なら、従業員は何が期待されているのかを探るのに時間をかける代わりに、行動そのものに集中できる。またリーダーの責任も明確になり、目標も達成しやすくなる。

制度

 どのようなプロセスを作り、どのような制度を定め、どのようなテクノロジーを採用し、どのような組織構造を構築し、そしてどのような肩書きを作るか。そのすべてが企業文化を強化し、あるいは弱体化する。企業文化全体にとって、カギを握る制度は5つある。

 ●採用

 従業員に期待される行動が明確なら、採用のプロセスにも望ましい明確性が出てくる。「企業文化との相性」で採否を決めるという通例の方法ではなく(これは実際には、会社が好ましいと感じる人、自分たちと似た人を採用するときの理由づけに使われる)、企業文化を補完する行動を取る人物を探すとよい。そうすれば、似た考え方の人を雇う傾向に歯止めがかかり、企業文化を補完し、豊かにする多様な経歴や観点、考えを持つ人材を集めることができる。

 ●戦略と目標設定

 この2つの活動は、企業文化に2つの効果をもたらす。同種の目標に向けて多くの人間を結集させること、そして、社員が期待通りの成果を出せるような指針を示すことである。

 ●評価

 行動は、どう評価されるのか。評価される頻度は、どのくらいなのか。フィードバックは共有されるのか。誰がそのフィードバックを口にしたかで、その重みは決まるのか。行動の基準に対して不信や疑問があると、誰もが政治的に立ち回り、恐怖に基づく行動を取る環境ができあがる。

 ●育成

 社員がもし、スキルの開発もフィードバック評価もエンゲージメントのアンケートも無意味だと思っているなら、それはおそらく、会社が実際に促し、報いることにつながっていないからだ。また、「安全な学習環境」が社員の成長を後押しするのではなく、点数の低い社員を罰するためのものになると、企業文化に問題が生じるおそれがある。

 ●報酬

 マネジャーや役員、副社長になれる基準は何か。こうした肩書を得るには、どんな行動が期待されているのか。どのような事務処理能力やリーダーシップが必要なのか。これらはすべて企業文化と理念を表現するものなのだが、残念ながら、無関係だと思われていることが多い。これらのプロセスが透明かつ公正だと思えれば、社員はCEOと友だちになるとか、同僚と競争するといった政治的な振る舞いに気を配る必要がなくなる。

 優れた企業文化では、この種のプロセスがきっちり決まっている。そのため、各プロセスが相互に強化し合う効果を生む。

習慣

「習慣」には、会社のイベントから会議の運営方法、フィードバックのプロセスから意思決定の方法まで、すべてが含まれる。

 繰り返し応用できる意思決定プロセスはあるか。会議の出席者は、協働とコンセンサス重視の姿勢を期待されているのか、それとも、ある程度の衝突はかまわないのか。マネジャーは、部下のパフォーマンスレビューで何について話すべきか。

 習慣は、会社の変化とともに変える必要がある。会社が成長したり、組織構成が変わったり、あるいは新たな脅威に対応したりするに応じて変えるのだ。かつて有益だった習慣もすぐに古くなり、無意味となり、ときには逆効果になることさえある。日常を離れたリトリートプログラムの当初の目的はチームの一体感を強めるためだったかもしれないが、会社の規模が3倍になったいま、どう変えるべきだろうか。 

 優れた組織とリーダーは、企業文化が一朝一夕には手に入らないことを知っている。企業文化を確立するのは、時間のかかるものなのだ。実行する努力も必要である。

 だが、(1)組織全体で期待される行動を真に理解し、(2)行動の実現と持続に役立つ制度やプロセスを定め、(3)社員と組織の向上に役立つ習慣をつくり出すことにしっかり時間をかければ、企業文化のギャップをなくすことができる。そして、「企業文化はすばらしいのですが、退職します」と、すばらしい人材から告げられずにすむはずだ。


HBR.ORG原文: Why Great Employees Leave “Great Cultures”, May 11, 2018.

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メリッサ・ダイムラー(Melissa Daimler)
アドビ、ツイッター、ウィワーク(WeWork)各社のグローバル・ラーニング・アンド・オーガニゼーショナル・デベロプメントを担当し、個人と会社双方の能力を伸ばすシステムを構築してきた。ツイッター@mdaimlerでも発信中。