企業がSSMWを活用している事例

 SSMWの開発目的は、型にはまった汎用的かつ固定的な一連のカテゴリーを作成することではなかった。私が提供したかったのは、基盤となる分類法であり、組織のチームやグループがそれぞれ独自に応用できるカテゴリーの提供を目指した。

 説得に関する研究によれば、状況について異なる見方を議論し、それを踏まえて、自分たちの見解に沿う対応ルールを策定していく過程にメンバーが参加をすることで、メンバーは変化を受け入れやすくなる。理想を言えば、各組織のメンバーが協力してSSMWの各カテゴリーにふさわしい事例を追加するとともに、そうした状況に効果的に対応する方法をつくり出していくことが望ましい。

 法律事務所からテクノロジー企業、非営利団体に至るまで、さまざまな組織がSSMWを活用している。これらの組織へ、またSSMWの実践を望んでいる人すべてに対する、私からのアドバイスは、SSMWを生きた文書として扱うことだ。どの言動や事例がどのカテゴリーに属し、その根拠は何かを話し合って決めていただきたい(囲み「演習」参照)。

 SSMWを実際に活用している企業の話を聞くと、勇気づけられる。

 キャサリン・ヌック・フリーマンは、ヌック・フリーマン・アンド・セラ P. C.の弁護士兼パートナーだ。彼女は従業員のトレーニングにSSMWを活用し、それによって「アップスタンダー(行動を起こす人)の文化」を促進できることに気づいた。彼女が称する「アップスタンダーの文化」とは、女性の側も男性の側も、進んでセクシャル・ミスコンダクトの問題に取り組み、オープンかつ建設的にこの問題に対処する意欲を意味する。ヌック・フリーマンによれば、ミスコンダクトがあったときに見て見ぬ振りをする代わりに、従業員が以前よりも進んで率直に話すようになるという。

 デイビッド・ローレンスは、リスク・アシスタンス・ネットワーク・アンド・エクスチェンジ(RANE)のチーフ・コラボラティブ・リスク・オフィサーだ。彼の見方によれば、組織にとってSSMWは、「発生しうるセクシャル・ミスコンダクトのさまざまな区分や往々にして微妙な区分を理解するために、また組織の評判を守るリスク管理の観点から、必要なソリューションを見つけるために」不可欠なツールだ。

 対応が不十分な組織が多すぎる。ローレンスは、そう考えている。性的に不適切な行為など自分の組織には存在しないと考えているリーダーも少なくない。またセクシャル・ミスコンダクトについて、黙秘するリーダーもいれば、すでに十分に対応したと思い込んでいるリーダーもいる。だが「セクシャル・ミスコンダクトについて話し、問題を早期に提起し、経験や見方を共有する方法を従業員に提供しない組織は、先行きが危険なままです」とローレンスは言う。また、彼はこう言い添えている。「手をこまねいている間に、問題がまたたく間に広がる恐れもあります」

 サンドラ・コレッリは、カナダ・トロントを本拠とする研修会社、コーポレート・クラス・インクのバイス・プレジデントだ。HR部門に勤務して18年以上が経ち、最近、彼女はジェンダーの違いに関するトレーニングでSSMWを活用し始めた。

 このツールがあると、セクシャル・ミスコンダクトについて公に口にした当人が、「自分の言い分に耳を傾けてもらっている、見守ってもらっている」と確実に実感してくれるとコレッリは言う。よくある微妙な状況まで、SSMWがとらえているからだ。「1つの発言やジェスチャーにさほど深い意味がないとしても、それが積み重なれば1つのセンテンスになる可能性がある」と言う。それはしばしば、意図せずして侮辱的な意味をもつセンテンスになると、コレッリは言う。上級幹部ならば、SSMWにあるような侮辱行為は自分たちの職場にはない、などと思い込んではいけない。コレッリはそうアドバイスする。

演習:あなたの組織でSSMWを活用しよう

チーム、部署または会社でSSMWを活用するにあたり、話し合いの口火を切るようなシナリオを、以下にいくつか紹介する。

まず、メンバーたちとファシリテーターを引き合わせよう。ちなみにファシリテーターの要件は、特定の人を名指ししたり、非難したりすることなく、議論をうまく進めた実績があることだ。

各シナリオがSSMWのどのカテゴリーに属するかを検討しよう。この状況が現場で解決可能だろうか。解決できる場合は、確実に2度と起きないようにするために、どのように話せばいいか。どのシナリオがよい教訓として活かす機会になるか。またSSMWの尺度では極端なケースに該当するため、上級幹部や人事部門(HR)の介入が必要になるシナリオはどれか。


 同僚があなたをミーティングに招いた後、あなたが「女性の優しい視点」を持ち込むことを期待する旨を述べた。

 あなたが顧客との取引を勝ち取ったと上司に伝えた後、上司があなたを熱烈にしっかり抱きしめた。こんなことは、いままでなかった。

 上司と付き合いたくないことを、何度か上司にはっきりと告げている。彼はそれが、あなたのキャリアにとって悪い決断だと告げる。

 会社の先輩から「君に興味を持っている」と言われ、ミーティングのたびに彼の隣に座るようにしつこく迫られ、椅子を引き寄せられる。あなたを不快にさせる笑顔を浮かべながら、彼があなたのメンターになる予定だと、あなたの上司に話しているのを、たまたま耳にする。

「昨夜、あなたの夢を見た」と同僚に言われる。「どんな夢だったか」と尋ねると、彼は「知りたくないだろうな」と言って、あなたにウィンクする。

 あなたの上司は話すときに、両手をよく使う。あるとき、活発な話し合いの最中に、上司が大きく振った両腕が、偶然にもあなたの胸に触れる。

 同僚からあなたとのミーティングを依頼されるが、「誰も誤解しない」ように、人目につかない場所で会いたいと要請される。

 新しい服を着て出勤したあなたに、上司がすれちがいざまに、「よく似合っている」と言う。

 同僚が社外ミーティングであなたを隅に追い詰める。他の人たちが見ている。あなたは徐々に離れようと試みる。同僚はあなたを引き寄せて激しくキスする。

 あなたがデスクから立ち上がると、男性の同僚があなたを上から下までじろじろと眺めてから、他の人たちの受けを狙って「9.5点」と言う。

 あなたが体にぴったりと合ったセーターを着て出勤すると、同僚から「いままで魅力を隠していたんだね」と言われる。同僚は誉め言葉のつもりでそう言ったようだ。