SSMW活用への課題
SSMWは、一部の組織では活用するのが難しい場合もある。
たとえば、米国上下両院のスタッフたちと話すなかで、私はこの問題が公になることへの懸念があると気づいた。その理由は、1つには、反発を生むことを恐れているからだ。もう1つの懸念は、申し立てられたミスコンダクトがSSMWのようなアプローチを使って評価される以前に、退職勧奨された同僚がいることである。SSMWに照らせば過剰反応だったと気づいたとしたら、あるいは対応不十分だったと気づいたとしたら、対処が求められる難題が多数生じる恐れがある。
また、こうした複雑な問題についてオープンに議論することが規範になっていない組織でも、SSMWの活用は困難かもしれない。オープンさと柔軟性を特徴とする「進化した組織」のほうが、SSMWを進んで受け入れられるだろうと、ヌック・フリーマンは述べている。
そうしたオープンな環境と対極にあることで知られる業界でのセクシャル・ミスコンダクトが引き金となり、「#MeToo」運動はいっきに盛り上がった。
私は最近、デヴィッド・パットナムとサンディ・リーバーソンと話をした。両氏とも受賞歴のある映画プロデューサーであり、教育者でもある。2人とも、映画業界は女性にとって特に厳しい職場だと評した。パットナムの説明によれば、トップの座に君臨しているように見える女性でさえ、「常に背後から危険が迫っているのではないかと、いつも気が気でないように感じていました」。またリーバーソンは、「恐れの文化」とメンタリングの欠如が、女性が長期的成功を収めるチャンスを損ねていると強調した。そうした企業文化ではセクシャル・ミスコンダクトの問題が発生すると、外部を排除する封鎖状態に陥りがちだ。
セクシャル・ミスコンダクトの話題は、多くの人々やさまざまな組織のなかに、「できれば避けたい」という感情を呼び起こす可能性が確かにある。だが、対立は変化の一部だ。SSMWを使って話し合いをするときには、ファシリテーターも必要だろう。組織内の人材でもいいし、組織外から招いてもいい。怒りをかわし、人々が過去に起きたことよりもこれからに焦点を合わせやすくなるよう、議論をうまく進められる人材が必要だ。
セクシャル・ミスコンダクトへの対応レパートリーの開発
何が適切な行為であり、何が不適切な行為かについて、組織全体でよりオープンな会話が実現する助けになりたいと私は考えている。加えて、侮辱行為が起きたその場で、人々が使えるとっさの反応のレパートリーを増やす助けにもなりたいと考えた。
個人のレベルでうまく対応できるようになれば、裁判にまで発展する問題になる前に、当事者の間で折り合いが付けられる可能性がある。
ジェンダーに起因する侮辱を止めるのに効果的なセリフのサンプルを以下に紹介しよう。比較的軽度の侮辱や、直接的でないスタイルの人に適しているセリフもあれば、単刀直入なセリフもある。どのセリフを使うかは、現場の状況、および使い手が何を適切と感じるかによる。
「あなたが言ったことを正しく聞き取ったかを確認するために、少し時間をとっているところです」
「一休みしましょうか。いまの発言を振り返るのにちょうどいいでしょう」
「私が当惑しているように見えるとしたら、その原因は、疑わしきは罰せずの恩恵をどのようにあなたに与えればいいか、考えている最中だからです」
「ちょっとお互いに一歩、引くことを提案します。いましがた、何かが誤った方向に向かいましたので」
「あなたが口にするかもしれないと思っていた言葉はいろいろありますが、いまの言葉はまったく想定外でした」
「私がいま考えていることを口にすれば、私たちは2人とも言い過ぎになります」
「互いに尊敬し合っている2人にしては、今日の私たちは常道から確実にそれています」
「それを、個人的ではない表現で私が言い直しましょうか」
「あなたは本気でそう言ったのですか」
「そのような発言に対しては反論したくなりますので、少し時間をください」
「あなたのことを知らなければ、あなたがいましがた私のことを侮辱したと思ってしまいます」
「そのような発言に対して私なりのルールがあります。応じないことです」
「あなたは何か主張したいことがあっていまの発言をしたのですか、それとも、単に私を利用して気晴らしをしようとしたのですか」
「あなたはたまに気の利いたことを言うけれど、今日は全然おもしろくないですね」
「#MeToo」運動が注目され、キャリアと組織への相当なリスク、そして女性に対する潜在的な反発が予想される現在だからこそ、セクシャル・ミスコンダクトについてオープンに話せるよう、あらゆる努力をすることが大切だ。特定の言動がどのように、どのくらい感情を傷つけるかを明確に伝える能力が優れているほど、女性と男性がともに効果的かつ公正に働くチャンスが高まる。
このような会話は容易ではないが、沈黙のブラックホールよりもはるかに優れている。ブラックホールからは、何もよいものは生まれない。
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キャスリーン・ケリー・リアドン(Kathleen Kelly Reardon)
南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授。社内政治、説得、交渉が専門。著書にアマゾンでベストセラーになったThe Secret Handshake、It’s All PoliticsおよびComebacks at Workがある。また犯罪ミステリーの著書にShadow Campusがあり、つい最近脱稿した2作目の犯罪ミステリーDamned if She Doesでは、セクシャル・ミスコンダクトに焦点を合わせている。ブログとアートのウェブサイトでも発信している。