キャッシュレス化の進展に伴い、幅広い購買情報を取り込んだデジタルデータを活用し、消費者にメリットのあるサービスを創出するマーケティングが始まっている。ただ、そこには日本のキャッシュレス化をどう加速させるか、リアル店舗での決済というフリクションをどう解消するかといった課題が残されている。しかし、いずれ日本でもキャッシュレスが大きく進むのは間違いない。そのとき「決済データの覇者」になるのは誰か、また、どのようなサービスが創出されていくのだろうか。

「決済」が単なる支払い手段から喜びへ

榮永高宏(えいなが・たかひろ)
アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 金融サービス マネジング・ディレクター

慶應義塾大学卒業、アクセンチュアに入社。国内金融機関を中心に、戦略コンサルティングに従事。特に近年は、業界横断ビジネスの戦略立案を担当(金融×α)。異業種クライアント様(キャリア・流通・EC・エネルギー等)の要望を一手に引き受け、数々のプロジェクトをリード。10年以上にわたり中期経営計画策定、新規参入戦略、M&A・合併、マーケティング戦略等の各種戦略や計画策定を推進。

――決済サービスを巡って、今どのような変化が起きているのですか。

榮永 ここ数年で、「産業から機能へ」という決済サービスのパラダイムシフトが起きています。今まで決済は金融の一産業と位置づけられてきました。しかし、最近はビジネスの機能として金融業界に限らず、すべての企業においてどのようにお客様が求める購買体験を提供するかということが非常に重要なテーマになっています。また、ECサイトやIT企業、運輸(電車)、通信など、決済サービスを提供する新規参入企業も爆発的に増えています。

 過去を振り返ると、1980~1990年代はクレジットカードやプリペイドカード、デビットカードなどが普及しました。現金をやり取りするストレスがなくなり、決済が無意識であっても安全・適切に行なわれる状態に進化したのです。

 今では決済自体に追加の付加価値を持たせることが重要になり、決済することが一種の喜びへと進化しています。一番わかりやすい例が、クレジットカードのポイントサービスですね。

 今後は、決済によって取得・蓄積された生活者の購買データがマーケティングにより一層活用されるようになるでしょう。利用者の好みに合った商品やサービスを提案するレコメンド・ニーズ訴求型情報提供の方向に進んでいくのではないかと考えています。

長谷部 産業から機能へといったときに現状、一番進んでいるのはクレジットカードです。カードのポイント付与について言えば、ポイントの原資を他事業から調達できる企業は大幅なポイントを付けられますが、原資を本業のみから調達する企業の場合、競争環境の激化に伴い、構造的に顧客が喜ぶほどのポイントを付けることは難しくなっています。このため、とくに銀行系は新たな付加価値をいかに生み出すかが課題になっています。

 また、複数の事業者がポイントの付与を乱発するような状況になっています。ポイント好きな人には喜ばしいことですが、それはごく一部。無関心派も多いのではないでしょうか。複雑すぎてわかりにくい、と感じている人もけっこういると思います。

 一方で、富裕層向けにはエモーショナルバリューを備えるカードがもてはやされていますが、デジタル化が進む中で、それがいつまで続くのか?という点も、興味深いところです。