「事前決済」は
店舗に大きなメリットがある

――リアルの店舗は一筋縄では電子決済に移らないということですね。ただ一方で、レジなしの「アマゾン・ゴー」(Amazon Go)のような店も登場しています。

榮永 加盟店がどういうメリットを感じるかというところなので、考え方としてはアマゾン・ゴーのようなリアルの場で新たな体験を提供するという方法もあるでしょう。

 また、スターバックスなどが取り組んでいる「事前決済」は、店舗に大きな効用をもたらします。通常は買うときにカードを使う事後決済なので、誰が買ったかわかるのは購入後ということになります。しかし、事前決済だとあらかじめ誰が店に来るかがわかるので、その人に応じた接客、プロモーションができるわけです。そういう意味で、いかに決済を入り口の時点でしてもらうか、そしてその情報をいかに加盟店に提供するのかというところがキャッシュレス化普及のポイントになるでしょう。IoT技術を使うと、そのへんの可能性が大きく広がってくるのではないでしょうか。

 最終的にはキャッシュレス化によって「データマニピュレーター」になること、それがペイメントプレイヤーとして今後大きく成長する道だと思っています。決済データで得た付加価値をしっかりと加盟店に還元する、場合によってはお客様に還元することで加盟店の売り上げ増につなげる。結局は先ほど長谷部が言ったとおり、手数料がネックになって加盟店側の非現金モチベーションがどんどん下がっているのですから、そこを打破するためのキーワードが「データ」だと感じています。

長谷部 ただ、実は決済データでは「何を買ったか」まではわかりません。わかるのは、加盟店の業種、いつどこでいくら買ったか?まで。何を買ったかはPOSデータまで踏み込めばわかります。そうした完全に理想的なデータが簡単には取得できない状況で、いかにしてデータをうまく活用していくか。これは長年、電子決済に関わる多くの企業が抱えているチャレンジの1つですね。

無意識の市場の拡大が
キャッシュレス化の起爆剤になる

――決済データはどのように活用されていくのでしょうか?

榮永 究極の目標は、その人が次に何を買うかを高い確率で予測することです。要は、加盟店にとっては、カード会社にデータを駆使してもらい自社の収益を上げていってもらう形になるので、そこの予測精度をどこまで高められるかがデータマニピュレーター(=データの覇者)として目指すべき方向性と考えています。

 例えば、生活の中で買うのは、必要なものと必要じゃないけど欲しいものに分けられますが、必要だから買うものは決済だけでなく、購買という行動自体もなくていい人もいると思っています。あらかじめ購買ルールがあって、お客様が勝手に購入してくれるなら、買う側も売る側もすごく便利になります。

長谷部 ティッシュペーパーやミネラルウォーターがなくなったら、考えることなく買って補充しますよね。こうした無意識の市場の拡大が、キャッシュレス化を加速する上で見逃せません。