私は同僚たちと過去20年余りにわたり、コーニング、デュポン、ゼネラル・エレクトリック、ペプシをはじめとするフォーチュン100企業を対象に、現場視察と600回以上のインタビューを行い、イノベーションに関して調査してきた。その結果、企業が競争の仕組みを変えるようなイノベーションを生み出し、育み、規模拡大するには、8つの主要な要素を備えた全社的なイノベーション管理システムが必要であることがわかった。

 それは、組織のトップから始まる。(1)イノベーションにコミットする経営陣と文化。経営陣は以下(2)~(4)に責任を負う。(2)イノベーション管理システム全体にわたる資源。(3)明確に表現された、飛躍的イノベーションの責務と範囲。(4)それを適切に実行するためのガバナンス体制。(5)異なる部門間で交流する、包摂的な組織構造。(6)全社で共有される、イノベーションのプロセスとツール。(7)全社で共有される、イノベーションの指標と報酬。(6)と(7)は、漸進的な製品改革よりも時間のかかる、飛躍的イノベーションのサイクルに見合っていなくてはならない。(8)従来の研究開発や新商品開発の役割とは、異なる技術と能力を持つ人材。

 我々はこうした要素が、さまざまな会社で、異なる方法によって具現化されている様子を目の当たりにした。しかし、すべての企業に共通していたこともある。それは、その場限り、1回きりのイノベーションの仕事を社員に与えるのではなく、イノベーションの制度化と専門家を育成するための体制をつくりたいという、強い思いだ。

 企業は、単なるイノベーションの仕事ではなく、イノベーションのキャリアを創造しなければならない。我々の研究でも示されている通り、企業にとって、イノベーションのための最も大切で重要な資産とは、人材なのだ。社内起業というコンセプトには、この視点が含まれているものの、天才が突如舞い降りて成功をもたらしてくれる、という願望に頼るところが大きい。

 そうではなく、イノベーションとは、組織を挙げた支援が必要な機能だと考えなければならない。会計士や人事マネジャーと同じように、イノベーションの専門家には明確に定義された役割、責任、報奨制度、キャリアパス、そして有意義な研修と能力開発の機会が必要なのである。

 優秀な人材を何人か雇い、最善の結果を期待しても、組織をまったく変えずにいてはうまくいかない。企業には、イノベーションを全社レベルで職能化、制度化する戦略的計画が求められる。これこそが、将来にわたる事業の健全化に不可欠な飛躍的イノベーションを育む唯一の方法なのだ。


HBR.ORG原文:The Myth of the Intrapreneur, June 26, 2018.

■こちらの記事もおすすめします
コダックはなぜ破綻したのか:4つの誤解と正しい教訓
350万人の調査データが示す、イノベーションを科学的に起こす方法
社内起業家を育てる5つの条件

 

アンドリュー・コルベット(Andrew Corbett)
バブソン大学のポール T. バブソン記念起業学講座教授。同校のエグゼクティブ教育の講師。本記事は、最新著書Beyond the Champion(ジーナ C. オコナー、ロイス S. ピーターズとの共著)を元に執筆。